2023年10月21日 / 最終更新日 : 2023年10月29日 times 因島椋浦町 松本肇短編小説Ⅲ 風の償い【9】【10終】 【9】 「お父さん、お母さん早く乗って」 明美はガレージから、アウディを出し乍ら言った。 明美には、心当たりがあった。 早苗が行くのは、椋浦の藤棚=写真㊤=に違いない。毎年、藤の花が咲く頃になると、早苗は明美を誘って、よ […]
2023年9月23日 / 最終更新日 : 2023年10月26日 times 松本肇短編小説 松本肇短編小説Ⅲ 風の償い【5】【6】 【5】 ゴールデンウィークも終わり、明美達は皆元気で認定こども園に勤務していた。お遊戯や歌なども終わり、お昼寝の時間になった時だった。こども園に設置している電話が鳴った。近くに居た菜摘(なつみ)が受話器を取ると、意外にも […]
2023年9月2日 / 最終更新日 : 2023年9月23日 times 松本肇短編小説 松本肇短編小説Ⅲ 風の償い【2・3・4】 【2】 五十嵐明美の父、洋一郎は、因島市内にある養護施設『つくし学園』の園長をし乍ら、市会議員も長くしている。市民からも、人格者で通っている、温厚な人物だ。 母の節子は、和服の似合う人で、表千家の茶道や未生流の華道を教え […]
2023年8月19日 / 最終更新日 : 2023年8月29日 times 因島重井町 松本肇短編小説Ⅲ 風の償い【1】 「博愛主義なんて偽善者よ!」 突然、激しい明美の声がして、春香は驚いた。普段は温和しい明美が、こんなに激怒する姿を今まで一度も見た事がなかった。 因北(因島北の略)にある、認定こども園に勤める保育士の春香と美佳、明美の三 […]
2023年7月29日 / 最終更新日 : 2023年8月4日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【32】【終】 11月3日は、文化の日という事もあってか、この日から1週間、山口市役所から歩いて10分位の所にある山口県立美術館で、フランスの白い季節を描いた天才画家ユトリロの展覧会が行われていた。 静子と拓也は連れだって道場門前から市 […]
2023年7月15日 / 最終更新日 : 2023年7月28日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【31】珈琲エル・グレコ 夕方5時過ぎには、家に着く事が出来た。 意外にも拓也が、夕食の支度をしてくれていた。野菜サラダにハムエッグ、それに味噌汁といった簡単なものだったが、疲労した体で食事の支度をするのが億劫だっただけに、何もしないで、すぐに食 […]
2023年7月8日 / 最終更新日 : 2023年7月19日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【29】【30】むらすずめ 家の前には、銀行の支店長名で、花輪が一対だけ立っていた。参拝者もパラパラである。 静子は芳江の黒のワンピースを借りて、真珠のネックレスをしていた。さすがに一人では気が引けるが、そこはドン(信子)とシャー(美佐子)が気を利 […]
2023年6月24日 / 最終更新日 : 2023年7月1日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【28】大原美術館 「ドン(信子)が、アミ(恋人)に会いたくなったんで倉敷まで行こうって言うのよ」 夕食の後片付けをしながら、静子が言った。芳江が電話で、葬儀は明後日だと言っていた。もし拓也が許してくれたら、明朝たって3日もあれば、時間はあ […]
2023年6月10日 / 最終更新日 : 2023年7月1日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【26・27】優曇華の花 3千年に1度咲くという、伝説の花、優曇華(うどんげ)の花が咲いていた。 辺り一面、白いフワフワとした、優曇華の咲いている中を、英雄と静子は、子供の様に飛んだり、跳ねたりしていた。 それは、フワリフワリと、ゴムまりが跳ねる […]
2023年6月3日 / 最終更新日 : 2023年6月16日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【25】秋芳洞百枚皿 あれ程ひどく、降っては積もり、積もっては降っていた雪も、ようやく終わりになりかけたとみえて、若葉の季節になろうとしていた。 「三寒四温とでもいうのでしょうか。幾分、暖かくなって、もうこのまま春になるのかと思えば、戻り寒波 […]
2023年5月27日 / 最終更新日 : 2023年6月6日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【24】山口駅 家から山口駅まで、どのようにして来たのか静子は分からなかった。傘もささず、ずぶ濡れで走って来た静子の姿を、改札口の駅員達も、訝(いぶか)しがって見ていたが、丁度ホームへ入って来た、小郡行きの列車に飛び乗った。湯田温泉駅よ […]
2023年5月20日 / 最終更新日 : 2023年5月24日 times ホテルいんのしま 因島ロータリークラブ 松本肇さんを表彰「ショパンの調べ」筆者 因島ロータリークラブ(兼田敏郎会長)は5月11日、ホテルいんのしまで開催されたクラブ例会において、因島三庄町在住で本紙連載「ショパンの調べ」筆者の松本肇さんに「クラブ社会奉仕賞」を贈った。 因島ロータリークラブは未来を担 […]
2023年5月20日 / 最終更新日 : 2023年5月30日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【23】 デニムで、ナナハンに乗っては走り回っていた拓也が、年を明けてからは、商工会議所の寄り合いだとか、商店街の会合とか、JCの集まりだとか言っては、スーツでプジョーに乗り、夜遅く帰って来る日が、週の内2、3回は続く様になった。 […]
2023年5月13日 / 最終更新日 : 2023年5月24日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【22】津和野・太鼓谷稲荷 慌ただしかった年も終わり、結婚して始めての新しい年を迎えた。 初詣は、京都の北野天満宮、福岡の太宰府天満宮と並ぶ、日本三天神の一つで、菅原道真を奉った防府の天満宮へ行くのかと思っていたが、日本五大稲荷の一つと言われる、津 […]
2023年5月6日 / 最終更新日 : 2023年5月14日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【21】 12月に入って、町の中は鉢植えのもみの木にカラフルな電球が飾られ、クリスマスムードを盛り上げてきていた。ジングルベルや、ホワイトクリスマスなどの曲が、連日、朝から晩まで流され、ショーウインドーには、橇(そり)に乗った、サ […]
2023年4月24日 / 最終更新日 : 2023年5月11日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【20】 静子は、店の前を掃こうと思って、外に出て驚いた。もう明るい筈の町が、まだ夜の様に暗い。ふと見上げてみると、アーケードの上に一夜の内に積もった雪が、すっぽり覆い、山口の冬の訪れを告げていた。因島では珍しい雪も、山口での冬は […]
2023年4月17日 / 最終更新日 : 2023年4月23日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【19】 店が休みの時、拓也は静子を誘って、よくドライブに連れて行った。 車で10分も走ると、瑠璃光寺の五重の塔がある。嘉吉2年(1442)大内盛見が、応永の乱で戦死した、兄の義弘の菩提を弔う為に建てたもので、31.2メートルの高 […]
2023年4月10日 / 最終更新日 : 2023年4月22日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【18】 静子は、食事の支度や、後片付け、洗濯に掃除…と、ごく普通の家庭の主婦のする事を、繰り返ししても、毎日5、6時間程余裕が出来た。時間の間をみては、時折店に降りて、品物を覚えたり、接客をしたり、出しゃばらない程度に、従業員達 […]
2023年4月1日 / 最終更新日 : 2023年4月8日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【17】湯田温泉の洋品店「ディラン」 尾道駅からは、在来線で三原迄行き三原から新幹線に乗り換えて、小郡駅で降りた。小郡駅から、山口線に乗り換え湯田温泉駅で下車すると、タクシーで10分足らずの所に拓也の店がある。 静子は最初、湯田温泉と聞いて、ひなびた山間の中 […]
2023年3月25日 / 最終更新日 : 2023年4月3日 times 大浜埼灯台 短編小説ショパンの調べ【16】大浜崎灯台の除虫菊 椋浦、外浦、鏡浦、大浜と、四つの港に寄ると、尾道に着く。 明治27年に点灯されたという、大浜崎の灯台も、後2年すると本州と四国を結ぶ、本四架橋の下になる為、長い間点し続けてきた灯も、消えるという。静子は、大浜崎灯台も自分 […]
2023年3月11日 / 最終更新日 : 2023年3月22日 times 因島三庄町 短編小説ショパンの調べ【15】因島三庄町浜上 船が時折り、淋しそうに汽笛を鳴らしながら進んで行く。 やがて、地蔵鼻岬を回り、静子の生まれ育った浜上(はまじょう)が近づいてくる。桟橋は無いので、波止場から伝馬船を漕いで船頭が沖合に止まっている、連絡船の所まで行き、乗客 […]
2023年3月4日 / 最終更新日 : 2023年3月14日 times 因島土生町 短編小説ショパンの調べ【14】宇和部桟橋 シーサイドホテルでの披露宴が終わり、皆が桟橋で、船の来るのを待っていた。 英雄以外の人と、何処へ行ってみても楽しい筈がないと思い、静子は山口へも行った事がないから、山口へ行くのを、新婚旅行の代わりにしたいと無理を言って、 […]
2023年2月18日 / 最終更新日 : 2023年3月6日 times 因島土生町 短編小説ショパンの調べ【12・13】いんのしまシーサイドホテルで結婚式・披露宴 結婚式は、車で10分程の所にある、海の傍に建っている、白亜の洒落たシーサイドホテルで行われる。 本来なら、新郎の住んでいる山口で、行われるべきなのだが、新婦の疲労を考えて、因島でする事になった。 最初、叔母は、叔母の家で […]
2023年2月11日 / 最終更新日 : 2023年2月18日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【11】花嫁人形 その日は、朝から雨が降っていた。瀬戸内海に浮かぶ温暖な因島では、年間を通じての降雨量も、目立って多くもなく、そう頻繁に雨を見る事は少ない。 「折角の結婚式の日に、寄りによって雨なんか降らなきゃいいのにね。何か不吉な事が起 […]
2023年2月4日 / 最終更新日 : 2023年2月12日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【10】 静子の思いとは裏腹に、式の準備は着々と出来ていた。結婚を知った近所の人や、友人、知人達からも、祝いの品物が届けられ、床の間に積まれていた。箪笥のセット、婚礼布団、着物なども店から到着し、家の中はもう道具が一杯で、足の踏み […]
2023年1月28日 / 最終更新日 : 2023年2月12日 times 因島中庄町 短編小説ショパンの調べ【9】金蓮寺の井戸 静子は、もうこれが英雄とこの世で会える最後の日と思い、中庄町の金蓮寺への道へ、二人で歩いていた。ここは、村上水軍の菩提寺で、水軍武将の夢の後が偲ばれる。 また、因島市内から出土した土器などを収めた因島市の史料館が建ってい […]
2023年1月21日 / 最終更新日 : 2023年1月30日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【8】 「お姉さん、なんであんな男の所へなんかお嫁に行くの?英雄さんの事、愛してるんでしょ。だから、叔母さんの口車に乗って、会ったりするから一度が二度に二度が三度になり、こんな事になってしまったんだわ。私への遠慮から?そんなんだ […]
2023年1月14日 / 最終更新日 : 2023年1月20日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【7】 今、静子は日下拓也と、尾道の千光寺公園にある、文学のこみちを歩いていた。「1日位、観光案内をしてあげておくれ」という、叔母のお膳立てで、その日の時間も全て決められていた。 かつて、林芙美子が『放浪記』で、尾道への望郷を綴 […]
2023年1月7日 / 最終更新日 : 2023年1月20日 times 因島三庄町 短編小説ショパンの調べ【6】地蔵鼻 海のすぐ傍に、真水の出る深さ1メートル位の不思議な井戸がある。その、水の浜の砂浜を歩き乍(なが)ら、英雄と静子は地蔵鼻岬へと、向かっていた。 かつて村上水軍が、岬で沖合を通る船の見張りをしていた所、1隻の船から琴の音色が […]
2022年12月17日 / 最終更新日 : 2022年12月29日 times 松本肇短編小説 短編小説ショパンの調べ【5】 『元気で暮らせよなんて優しい言葉言って欲しくなかったわ』 静子は台所に立って、包丁を使っていると何時の間にか、『遣らずの雨』が口から出てハッとした。この歌が好きで、英雄と会っている時も、ふと気がつくと、口ずさんでしまう事 […]