短編小説ショパンの調べ【32】【終】

11月3日は、文化の日という事もあってか、この日から1週間、山口市役所から歩いて10分位の所にある山口県立美術館で、フランスの白い季節を描いた天才画家ユトリロの展覧会が行われていた。

静子と拓也は連れだって道場門前から市役所前まで歩き、そのまま県立美術館まで行った。

プジョーでは駐車場も混んでいるだろうし、たまには15分位歩くのも良いと思って出掛けたが、やはり駐車場は一杯で、散歩がてら歩いたのが正解だった。

県立美術館では、主に山口県ゆかりの画家の作品が展示されているが、エスカレーターで2階へ行くと、ユトリロの絵が展示されていた。

『古びた中学校』『サンノアの通り』『コタン小路』…と、一点一点観て回り、アル中患者であったユトリロが、その酒の臭いを全く感じさせない作品の『オルシャン街』のレプリカを購入した。包装して貰い、それを拓也がさりげなく持って二人して美術館を出ようとした時、ふと掲示板に貼ってあるポスターに、目が留まった。

それは、ショパンの申し子とも言われる『時雨淳』の、コンサートの案内だった。

山口県立美術館

ベルベットのラベンダーバイオレットに、金糸、銀糸をあしらった鳳凰の刺繍をした緞帳が、静かに上がった。

ステージの中央には、グランドピアノが置かれている。

ウラジミール=ホロビッツの再来とも言われ、ショパンコンクールで、賞を総なめしている天才青年ピアニスト『時雨淳』が登場した。

黒のドスキンに、蝶ネクタイをした時雨淳は、端正な顔立ちに、センター分けしたやや長めのヘアースタイル、176センチの身長と、プロフィールに書かれている通り、モデルでも充分通用するスタイルだ。

客席に一礼をし、椅子に座って、一曲目の『小犬のワルツ』を弾き初めた。

優雅に気品良く、滑らかに鍵盤に指を走らせている。

『華麗なる大円舞曲』『雨だれ』『軍隊ポロネーズ』と演奏していき、やがて『幻想即興曲』になった。

軽く髪が乱れ、額にうっすら汗が光っているのが分かった。

その『時雨淳』の顔が一瞬、英雄の顔とダブった。静子に、何とも言えない感情が走った。

隣に拓也が居なければ、口に出して名前を呼んでいたかも知れない。静子は心の中で、英雄さん…と呼んでいた。

(終)

松本肇(因島三庄町)

 

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