短編小説ショパンの調べ【7】

今、静子は日下拓也と、尾道の千光寺公園にある、文学のこみちを歩いていた。「1日位、観光案内をしてあげておくれ」という、叔母のお膳立てで、その日の時間も全て決められていた。

かつて、林芙美子が『放浪記』で、尾道への望郷を綴った『海が見えた海が見える五年振りに見る尾道の海は、懐かしい』という石碑の前に立ってみると、本当に尾道の町を一望する事が出来る。

また川幅程しかない尾道水道を隔てた、対岸の向島も良く見渡す事が出来る。二人は、千光寺公園の境内にある茶屋で、緋毛氈の上に座り、抹茶を一服飲んだ。英雄と一緒に、何度ここに来た事があるだろうか。唯、楽しいばかりで、少女の様にはしゃぎ回っていた自分が、今、英雄以外の男性と、ここに居る事が静子は信じられなかった。英雄と見たこの町は、生き生きして見えたのに、今目にする景色の、何と虚しく写るものかと、静子は思った。

「確か志賀直哉が暗夜行路を書いた旧居跡が、この辺りにある筈なんだけど…」

そんな静子の気持ちを知ってか、知らずにか拓也は、駅前の観光案内所で貰った、ロードマップを手に、歩を進めていた。尾道は、坂の町と言っても良い程幅2メートル位の石段を挟んで、両方に民家が建ち並んでいる。千光寺公園への登りは、ロープウェイだったので下りは、この坂を歩いて回る事にした。そこは、石段から少し横道にそれた所に、門構えで庭つきの、建坪30坪位の2階建てで、残っていた。「ふーん、ここであの小説を書いたのか」と拓也は満足したのか、しきりに一人で頷いていた。

松本肇(因島三庄町)

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