短編小説ショパンの調べ【1】
島が燃えているのかと、見間違える程の花火の競演だ。
国鉄尾道駅で下車し、連絡船に乗り換え1時間20分位の所に位置する、瀬戸内海に浮かぶ人口、約4万の因島では、毎年旧暦6月16日に「宮島さん」と呼ばれる花火大会が行われる。
他にこれといって、娯楽の少ない島民達は、年に一度の花火大会を、皆が心待ちにしている。
高橋静子は、今自分にきている見合いの話を、何時切り出そうかと、迷っていた。
銀行員の湯浅英雄と付き合い初めて、かれこれ2年近くになろうとしていた。
自分ももう、今年の誕生日で24歳になるし二人姉妹の長女の自分が、早く結婚しなければ、二つ年下の妹、芳江にも結婚を逸する事になる。
「今、見合いの話が来ているの」
何度目かの花火が打ち上げられた時、静子は思い切って言った。
「…………」
花火の音に打ち消されて、聞こえなかったのか英雄は答えなかった。
今まで叔母が、見合いの話を持って来る度に理由をつけて、断り続けてきたが、市内の造船所に勤めるサラリーマンの父の収入で、4人家族が暮らしていくには、いつまでも花嫁修業という訳にはいかなかった。
松本肇(因島三庄町)
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