松本肇短編小説Ⅲ 風の償い【5】【6】

【5】

ゴールデンウィークも終わり、明美達は皆元気で認定こども園に勤務していた。お遊戯や歌なども終わり、お昼寝の時間になった時だった。こども園に設置している電話が鳴った。近くに居た菜摘(なつみ)が受話器を取ると、意外にも明美への用事だった。

原則として、こども園では個人の携帯電話は、勤務中ロッカーに入れておくのが義務づけられていた。余程の急用では無い限り電話をかけて来ない様にしているのに、訝(いぶか)しがり乍ら受話器をとった。

「明ちゃん、忙しい時に、御免なさいね。実は、早苗がお昼になっても食事に来ないので、部屋に呼びに行ったら居なくて置き手紙が2通置いているの」

保育士1人が不足すると、他の人に迷惑をかけるから、仕事が終わってから帰ろうと思っていた。電話のやりとりを聞いていた美佳が来て言った。

「急用なんでしょう。後は私達がやるから、急いで帰って」

「でも…」

「でもも何もないよ。困った時はお互い様だから」

有難い事に、この園では妬みやイジメがなくチームワークは最高だった。申し訳ない気持ちで、後ろ髪を引かれながら帰宅した。


【6】

「御免ね、明美。これ、この手紙を見て」

母の節子はオロオロとしていた。

置き手紙は2通あって、意外にもそのうちの1通は、自分に宛てたものだった。

「明ちゃん、御免なさい。明ちゃんにとって、私の存在が迷惑みたいなので、この家を出る事にしたの。今まで楽しかった。長い間、有難う」

父母に宛てた手紙には「お父様、お母様先立つ不孝をお許し下さい。早苗は、お父さん、お母さんの子供に生まれて幸せでした。有難う御座いました。」

「朝は姿を見たんだ。明美、早苗の行きそうな場所に、心当たりが無いか?」

「何よ!自分が愛人に生ませた子供だから心配するのね。私だったら、何とも無いんでしょう」

「明美、お前何を言ってるんだ。早苗は、私の愛人の子供なんかではないよ。お父さんは、お母さん一人だけを愛しているんだ」

「だって、戸籍とか、玉井先生とか言ってたじゃない」

「明美、何時それを知ったんだ?とんでもない誤解だよ」

「あれは、今からもう20年以上も前の、冬の寒い日だった。私が『つくし学園』から外に出ようとすると、まだ若い女の人が、この前を行ったり来たり、しているんだ。」

「何か事情があるのだろうと思って、家に入って貰ってお母さんと一緒に、話しを聞いたんだ」

松本肇(因島三庄町)

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