短編小説ショパンの調べ【29】【30】むらすずめ

家の前には、銀行の支店長名で、花輪が一対だけ立っていた。参拝者もパラパラである。

静子は芳江の黒のワンピースを借りて、真珠のネックレスをしていた。さすがに一人では気が引けるが、そこはドン(信子)とシャー(美佐子)が気を利かしてくれて一緒に来てくれていた。二人共、略礼装にしているので、静子の存在は余り目立たなかった。祭壇に置かれた英雄の写真が微笑んでいた。二人で青影城址に行った時、静子が写したのを引き伸ばされていた。

読経が終わり、参拝者が棺の中に係の人から手渡された花を入れ始めた。静子は、皆が終わった最後に前に進んだ。信子と美佐子の二人が並んで立って、静子の姿が皆に見えない様に遮って、フェンスを作ってくれた。静子は改めて、英雄の顔をしみじみと見つめた。まるで眠っている様だ。静子はその頬を両手で挟むと、口づけをした。涙が混じって、英雄の頬を濡らした。信子と美佐子のお陰で、英雄に最後の別れをする事が出来た。

やがて、出棺の準備が始まった時、英雄の叔父が四角い包みを持って、静子に手渡した。結構重い包みだった。

英雄さんが死んだのは、私のせい

英雄さんを、死に追いやったのは…私

対面ばかり考えて、心で思うまま、行動出来なかった。

あの時二人で、駆け落ちすれば、よかったのに。

死んじゃ駄目だと抱き寄せた貴方に命を預けます

石で追われた故郷を貴方とならば生きられる

暗い街角手に手を取って逃げて暮らした愛の日々

頭の中で、静子は何度そう出来ればと思った事か。静子は、すぐにでも英雄の後を追いたかった。だけど、今の立場ではどうする事も出来なかった。

読経の音が、静子の耳にまだ残っている。

実家で二泊して、今は福山に向かっている。

倉敷まで行こうと思えば行けない訳ではなかったが、ちょっと無理なので、福山まで行き駅の構内にある『サントーク』の全国名産品店で倉敷名物の『むらすずめ』を二折り買った。

ここには、北海道の『白い恋人達』から九州の『かるかんまで』、日本各地の土産物が置かれている。別に取り立てて饅頭を買う事もないのだが、カムフラージュにもなる。

『むらすずめ』は京都の生八ツ橋に良く似ていて、薄いクレープの中に餡が入り、それを三角に閉じた生菓子である=写真㊦。中に入っている、粒あんの味が、静子は好きだった。

帰りの新幹線は指定をとった。小郡までなので、もし混んでいても、途中三原か広島では座れるだろうと思ったが福山から指定にした方が、安心である。

静子は、英雄の叔父から手渡された包みを開いてみた。それは豪華な、漆塗りの孔雀の絵の付いた蒔絵の文箱の様だった。蓋を取るなり、突然オルゴールが流れ出したので驚いた。ショパンの『幻想即興曲』のメロディーだった。文箱だと思っていたのはオルゴールだったのだ。

我死して再び生まれ来し時は次の世こそは君と添いたし

備後和紙に、英雄の達筆な毛筆の後があった。

松本肇(因島三庄町)

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