短編小説ショパンの調べ【26・27】優曇華の花
3千年に1度咲くという、伝説の花、優曇華(うどんげ)の花が咲いていた。
辺り一面、白いフワフワとした、優曇華の咲いている中を、英雄と静子は、子供の様に飛んだり、跳ねたりしていた。
それは、フワリフワリと、ゴムまりが跳ねる様に、柔らかく、まるでビデオのスローモーションを、見ている様な感じで、台地に足を下ろしたといった感触は、何故か無かった。
静子が走ると英雄も走る。静子が転ぶと英雄も転ぶ。まるで二人は、子犬の様に、じゃれあっていた。
静子はふと、この光景と同じ様な場面を、何時か何処かで見た様な気がした。2、3メートル程、前を走っていた静子に、何時の間にか英雄が、追いついていた。
「静ちゃん好きだ」
英雄が静子を抱きしめて、囁いた。静子も何か、言おうとしたが、それは、言葉にならず目が覚めた。
我が燃える 心の君を想いつつ 眠る夜更けの 熱き耳元
夢の中、英雄に囁かれた右耳だけが、現実の出来事の様に、ほてっていた。
結婚して初めての記念日がやってきた。早いもので、あれこれしている内に、もう一年が過ぎていた。拓也は、この日は『ルヴェルディ』でケーキを買い、『ダンケ』へドイツ料理でも、食べに行こうと提案したが、静子は、ご馳走とまでは、いかなくても、手作りの料理をしようと思って、朝から仕度をしていた。
寿司に、刺身、吸い物などを作っていると、突然水道の蛇口から、水がザーッと勢いよく音をたてて、流れ出した。
驚いて栓を捻ってみると、水道栓は、きつく閉められたままである。時間にしてみれば、ほんの僅かな時間だったが、栓の閉まっている蛇口から、あれだけの勢いで水が流れ出た現実が、不思議だった。
電話のベルが、鳴っている。コールサインが3回程で、静子は受話器をとった。
「お姉さん、今、傍に誰か居るの?もし都合が悪かったら、相槌だけ打ってくれる」
「マア~よっちゃん、久しぶりね。元気だった?今、一人よ。お寿司を作っているの」
電話は、妹の芳江からだった。それにしても、何時もだと、遠距離の割引の時間にしか、かけてこないのに、昼間からかけてくるとは何か急用でもあったのかと、胸が騒いだ。
「お姉さん、大変。心を落ち着けて聞いてね。湯浅さんが…英雄さんが交通事故で、亡くなったのよ。今朝、8時37分、大型のトラックに、自分から飛び込むようにして、跳ねられ、即死状態だったそうよ」
静子は、一瞬耳を疑った。何かの間違いで、あって欲しい。8時37分といえば、丁度、閉めている栓から水道が流れたのと、同時刻だった。静子は軽い目眩を覚えた。
松本肇(因島三庄町)
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