短編小説ショパンの調べ【11】花嫁人形

その日は、朝から雨が降っていた。瀬戸内海に浮かぶ温暖な因島では、年間を通じての降雨量も、目立って多くもなく、そう頻繁に雨を見る事は少ない。

「折角の結婚式の日に、寄りによって雨なんか降らなきゃいいのにね。何か不吉な事が起こらなきゃいいけど」

後さきの事を考えないで、思った事をポンポン言う叔母は、おめでたい日には、タブーだと言われている言葉を使って、周りの者をハラハラさせていた。

角隠しをして、打ちかけ姿の静子が、一歩玄関から外に出ると、集まっていた近所の人達も、その美しさに皆、溜め息をついた。細面で、スマートな静子は、普段から余り化粧をしていなくても、女優みたいだとか、人形みたいだとか良く言われたものである。

式場まではタクシーで行くのだが、自宅から少し歩いてタクシーに乗る為、100メートル位先の交差点の所に、タクシーを待たせている。近所の人達が、道路の両端に立って、花嫁行列を見送ってくれている。

静子は、観音山から流れている、河原の畦道を見て、驚いた。今年は、暖冬異変のせいか、いつもだと9月に咲く彼岸花が、中々咲かず10月になって、やっと咲いた。その名残なのか、10本程が一塊りになって、隅っこの方に、ひっそりと咲いている。

『金蘭緞子の帯しめながら花嫁御寮は何故泣くのだろう』

静子は、今ほど『花嫁人形』の歌詞が、身にしみる事はなかった。

松本肇(因島三庄町)

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