2007年12月22日 / 最終更新日 : 2007年12月22日 times せとうち花壇 蔓枯れの青きナンキン下がりおり冬至に食べんと持ち帰りたり 渡辺スズ子 年の瀬が近くなると、猫の手も借りたいような忙しさである。今年最後の畑仕事をと、ミカンの枝の片付けや、家の周りの整理をしていたのかも、竹垣に葉っぱも蔓も枯れてしまった蔓に、半熟れか青成りかの、まだ青味の残って […]
2007年12月15日 / 最終更新日 : 2007年12月15日 times せとうち花壇 この広き地平の中の一隈(くま)に小さき夢を追いつつ生きる 西本としゑ 初句に「広き地平」という言葉が登場する。まことに視野の広い詠風で、時代は歌とともにあり……
2007年12月8日 / 最終更新日 : 2007年12月8日 times せとうち花壇 鳥たちに飽食の冬であるらしく未だたわわに柿の残れる 中西 貴子 今年の秋は、柿や蜜柑類は豊作だったのか、もう十二月の終りだというのに、畑や道端の木には、色づいた柿の実が枝もたわわに残っている。例年であれば、一つ残らず食い尽されているのに、と思いながら、小鳥たちも人間と同 […]
2007年12月1日 / 最終更新日 : 2007年12月1日 times せとうち花壇 指太く土に馴染みし両の掌をハンドソープの泡に包めり 河内せい子 両の掌を…までの上句の充実感が、下句の泡に包まれた未知の発見につながり、生活のなかのロマンが、とても楽しい。
2007年11月24日 / 最終更新日 : 2007年11月24日 times せとうち花壇 客帰り気が付くと小さな棘(とげ)がある脳よあのとき眠っていたの 増成 君子 解りにくい詠み方ともとれるが、一、二度読み返してみると納得できた。 さて、この家に来ていた客とは、良いお客か、悪いお客か、まあまあの客かなどなど考えてみた。何かの用件があったに違いないが、普通に考えて、隣 […]
2007年11月17日 / 最終更新日 : 2007年11月17日 times せとうち花壇 ひそやかに生き終えしもの見届けぬ午前三時の流れ星ひとつ 藤原野栖枝 初句の「ひそやかに」が「生き終えし」と「見届けぬ」の両方に効き、歌の解釈は簡単になる…ナントイイマショウカ…短歌の妙でありましょう。 午前三時の静けさの中、流れ星が音も無く消えた。それを見た作者は「寿命と […]
2007年11月10日 / 最終更新日 : 2007年11月10日 times せとうち花壇 買いものの行きに帰りに目に止まる店先に吊られ揺るる干蛸(ほしだこ) 岡野 幸子 秋から冬にかけての島の風物詩の一つである。八本の脚を形よく広げ店の軒先にひらひらと揺れている。いつもの通い馴れたほどよい道のりを自転車か単車で行き来していて、ふと目に止まったのである。
2007年11月3日 / 最終更新日 : 2007年11月3日 times せとうち花壇 オジギソウ指を触れれば葉を畳むそれで私は機嫌を直す 三島美知子 この一首は事の始終が分かりやすく詠まれている。作者は何かのストレスを発散したくてオジギソウに触った。するとオジギソウは葉を畳み始め、その動きを見ているとストレスが消え、機嫌よくなっていく自分が見えた。このよ […]
2007年10月27日 / 最終更新日 : 2007年10月27日 times せとうち花壇 秋晴れを医院へ向かう道端の行商の荷台に蟹(かに)神妙なり 岡本美穂子 今日はお医者への予約日だ、それにしても良いお天気で、晴れ透るという秋空である。子供達が空は広い、と歌っている声が聞えて来そうだ。
2007年10月20日 / 最終更新日 : 2007年10月20日 times せとうち花壇 高校弓道大会さやか吉備神社の矢場に並べる的に挑みぬ 和田 綱郎 弓といえば那須与一、高校弓児と同じ年恰好での扇射落しをお目にかけます。…その時、沖から紅扇を飾った小舟一艘が源氏方へ近付いてくる…
2007年10月13日 / 最終更新日 : 2007年10月13日 times せとうち花壇 去年(こぞ)逝きし義姉の長着の届けられ筆書きのわが名胸あつく見入る 三島美知子 このような義姉(あね)の死や縁者にかかわる歌は挽歌(ばんか)といわれ、中国の故事の中にも、柩車を挽いていたものが歌ったという。死者を悼(いた)む哀傷歌である。 そこに歌われている事柄に強弱があっても、内面 […]
2007年10月6日 / 最終更新日 : 2007年10月6日 times せとうち花壇 かんころやかぼちゃばかりを食べし頃の友の来たりて時を忘るる 片山 哲子 戦時体制のしわ寄せで飢餓が国中を覆った…そんな少女時代の記憶が蘇り、作者は当時の友と語る。 かんころやかぼちゃを食べながら神風が吹くのを信じていた。何でもかでも可笑しかった。娘らしい衣服を身に着けたかった […]
2007年9月1日 / 最終更新日 : 2007年9月1日 times せとうち花壇 さまざまな音に呼ばるる家内に電子レンジのチーンの一言 安川二三子 近ごろの家庭機器はそれぞれに、くれぐれもお忘れないように、とご親切に「お知らせ音」を出してくれるから安心である。特に年齢を重ねるごとに「ど忘れ」「物忘れ」が多くなって来ると、火災や怪我などによって生命の危険 […]
2007年8月4日 / 最終更新日 : 2007年8月4日 times せとうち花壇 海中にあらわれし道夫と娘は嬉々と駈けゆく八重子島まで 山崎 尚美 白砂青松の風景だった。ひろがりのある美しい風景が例えようのない懐かしさを湛えて輝いていた。その海岸に立つと人はただ懐かしむのだ。
2007年7月28日 / 最終更新日 : 2007年7月28日 times せとうち花壇 チョコレートとビールの好きなうちの嫁(ママ)晩酌のとき少し照れてる 土居 瑠子 長い梅雨も明けたので、夏らしい短歌をと思い選別していたら、今流のしゃれた歌に出会った。ビールをぐっと一杯は、なんとも言えない気分。とくに真夏の夕方の清涼感は格別である。
2007年7月14日 / 最終更新日 : 2007年7月14日 times せとうち花壇 ルソン島に散りたる義兄よ風となり空駆け帰れ今日は命日 短歌・小川 計江 若者がはるか南方のルソン島の地において散華した鎮魂(ちんこん)歌である。この歌の作者に命日とはいつかと聞いた、戦争のもっとも激しかった昭和19年か20年ごろかと思ったが意外にも早く、昭和18年の3月で […]
2007年7月7日 / 最終更新日 : 2007年7月7日 times せとうち花壇 西方に傾けばすこしふくらみて日は横すべりに山に呑まるる 小林基美 一見して平易に詠まれているような一首だが、作者のひとひねりは人を驚かすに足るものだ。「ふくらみて」までは日常から外れていないが、「日は横すべり」以下の詠み込みからは、詩的想像を掻き立てられる。
2007年6月23日 / 最終更新日 : 2007年6月23日 times せとうち花壇 空音(そらね)を響かせて折る虎杖(いたどり)の酸っぱさを今日の鎮めともせむ 池田 友幸 虎杖という名を知ったのは少年期で、幼い頃からハアタナと呼んでいた野草に虎杖という別名があると知り驚いた。その特徴は若い茎を折ればポンと鳴ることで、ハアタナ摘みを楽しくしてくれた。思い返せばハアタナ時代のポン […]
2007年6月23日 / 最終更新日 : 2007年6月23日 times せとうち花壇 せとうち歌壇新執筆者・平本雅信さんの紹介 本紙連載中の「せとうち歌壇」に今号から平本雅信さんが登場した。池田友幸さんと交互の執筆となる。平本氏は因島三庄町の出身。1970年に仕事の都合で因島を離れ、2006年10月にUターンし、現在は因島中庄町に奥さんと二人で […]
2007年6月16日 / 最終更新日 : 2020年6月8日 times せとうち花壇 中国の大地を転戦せし老いの「麦と兵隊」歌うに唱和す 中国の 大地を転戦せし老いの 「麦と兵隊」歌うに唱和す(柏原幸枝) 「麦と兵隊」を歌っている席はどのような席かは不明であるが、そこに立ち上がって、思わず口を衝いて出て来るのは青春の日の歌である。とは言うものの、気が付けば […]
2007年6月2日 / 最終更新日 : 2007年6月2日 times せとうち花壇 中天に銅鏡となり陽がありぬ黄砂降り来る一日長 松本 悦郎 五月ともなれば、晴れた日には燦々と陽が輝いていて、空に向って深呼吸がしたくなるのである。
2007年5月19日 / 最終更新日 : 2007年5月19日 times せとうち花壇 蜀黍(もろこし)のまじれる昔の宿の飯いまなれば健康食と言わんか 和田 綱郎 昔とは言うものの、そんなに遠い日ではなく、戦中(太平洋戦争)の日本の全国民が食料不足の為に、命からがら生きていた時代の旅の想い出と現代を見据えた歌である。
2007年5月5日 / 最終更新日 : 2007年5月5日 times せとうち花壇 旅先で笑顔作りてポーズとるも飾れる写真一枚もなし 半田ミチエ 最近のハイテクカメラは撮って直ぐに見ることが出来るが、その反面に楽しみが半減するのではないだろうか、やはり以前のように旅先で撮って帰ったフィルムを写真屋さんに現像焼付けをしてもらい、家で一枚一枚を繰りながら […]
2007年4月7日 / 最終更新日 : 2007年4月7日 times せとうち花壇 水没のさまにも見ゆる水船が意外と速し潮流に乗る 松本悦郎 船体がいまにも沈んでしまいはしないかと思うほどに、吃水線を低く波を蹴立てて進んでいる。 ―ん、あれは水船だな。 以前によく見かけた薄黒い船とは違って、カラフルになったと思いながら見ていると、いつの間にか視 […]
2007年3月17日 / 最終更新日 : 2007年3月17日 times せとうち花壇 接木せし「はるみ」の芽立ちぐんぐんと実のなる日まで夢はふくらむ 島田 義治 近ごろは、蜜柑の品種もいろいろとあって、糖度の高いものが店頭に並ぶようになった。私どもが一寸目にするだけでも「きよみ」「はるみ」「はるか」「せとか」「はれひめ」という品種名があげられる。江戸時代にはハッサク […]
2007年3月3日 / 最終更新日 : 2015年4月12日 times sports 「樽募金」に支えし小さな大投手逝きたりし夜亡き夫に語る 柏原 麗子 樽募金と耳にするだけでもなつかしいことばである球団結成当時は、スポンサーもなく、広島県の市民によって支えられている広島カープ球団であるだけに、普通の入場料金のみではどうにもならず、球場の入口には木の樽を置いて […]
2007年2月17日 / 最終更新日 : 2007年2月17日 times せとうち花壇 夫と伐るミカンの古木チェンソーの唸りは木霊(こだま)の叫びとも聞く 吉原 浩子 ミカン木の効率の悪い、植えて30年40年と経った古木を夫婦で伐り倒している情景である。ここ数年、急に実りの悪くなった木を、今年こそはと言いながらなかなか決断は出来なかったが、思いきって伐ることにした。
2007年2月3日 / 最終更新日 : 2007年2月3日 times せとうち花壇 花推協とう札を差す花壇の半ば素枯れて秋日好天 平本 雅信 終りの一句の「秋日好天」によってこの歌がさわやかに立ち上がっている。秋の季節は秋の七草に代表されるように、秋らしい季節感のある花を一杯に咲かせてくれる時である。また一方では夏花から冬の花々の交替どきでもある […]
2007年1月20日 / 最終更新日 : 2007年1月20日 times せとうち花壇 減反か人手不足か車窓より去年見し畑枯草覆う 増成 君子 年に一回か二年に一回くらいしか通らない道と思われる。乗り物は車でも電車でも同じであるのだが、去年通った時には、あれほど稔り豊かに整然と穂を垂れていた稲田(野菜かも)も一年か二年で枯草の畑となりこのように荒れ […]
2007年1月1日 / 最終更新日 : 2007年1月1日 times せとうち花壇 山裾に落ちし大きな流れ星興奮さめやらぬ新春のジョギング 岡野 幸子 新春とは言っても、もう一月の五日である。特別に呼び名があるのではないが、初ジョギングである。年末から年始にかけてあれやこれやで忙しくしたので、体の方も少しやわになってはいないかと思いながら、いつもどおりのジ […]