ふるさとの史跡をたずねて【166】誤伝・十字架観音像(因島重井町白滝山)

誤伝・十字架観音像(因島重井町白滝山)

青木茂氏の『因島市史』(昭和43年)は渾身の大作で、デジカメもワープロも無かった時代に、孤軍奮闘されたようすがいたるところに現れており、頭が下がる。しかし、気になる表現もある。白滝山には「全国的に珍しい十字架観音像があり…」(897頁)と記されている。

青木茂氏が山陽日日新聞の記者の時代であれば、こういう表現も許されたかもしれない。だが、『因島市史』執筆時は歴史学者になられており、青木氏自身も歴史学者として、『尾道市史』『新修尾道市史』同様、全力で執筆に当たられたものである。ならば、真偽を確かめ、真に全国的に珍しいものであるなら、もっと頁を割いて、その歴史的意義などを考察すべきであった、と私は思う。

実は、これまでにも何度か書いたが、写真のような石仏を十字架観音像と呼ぶことは、常識的にも、また学問的にも間違っている。周辺の石仏と比べても江戸時代の後期に作られたことは間違いなかろう。そうすると隠れキリシタンが、人目につくところに十字架など彫ることは考えられない。また、文字は消えて読めないが右下に枠があって作者の尾道石工の銘があったと思われる。作者名を書いて、十字架を彫るということは自殺行為以上の愚行である。まずあり得ないことであろう。

次に学問的には、キリシタン灯籠をはじめとして、隠れキリシタンの遺物は、周辺にキリスト教信仰に関する聖書、クロス等の物品が発見されてはじめて隠れキリシタンの遺物だと認定されるというのが、キリスト教文化史家の常識である。そうであろう。今でも古い農家の蔵にはいろいろなものが保存されている。その中のホコリをかぶった建具などの格子が、ネズミのオシッコか何かで左右が短く見えると十字架のように見える。このような物を隠れキリシタンの十字架だと喜んでいてはキリがないではないか。

写真のような武具を持った観音像はよくあるもので、決して珍しいものではない。それを十字架だという珍説が50年以上も語り継がれてきたことの方が、よっぽど珍しい。

(写真・文 柏原林造)

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