短編小説ショパンの調べ【5】

『元気で暮らせよなんて優しい言葉言って欲しくなかったわ』

静子は台所に立って、包丁を使っていると何時の間にか、『遣らずの雨』が口から出てハッとした。この歌が好きで、英雄と会っている時も、ふと気がつくと、口ずさんでしまう事がある。

「静ちゃん、僕はその歌嫌いだな」

悲恋の別れを秘めたこの歌を、英雄は極端に嫌っていた。普段、静子に対して、意見らしい事は何一つ言った事のない温和しい英雄にしては、珍しい事だった。分かっているつもりでも、炊事をしたり、散歩をしていたりしていると、無意識の内にこの歌を口ずさんでしまうのだ。

英雄は演歌よりも、むしろポップスの方が好きなのか、何時かサイモンとガーファンクルの『明日に架ける橋』のシングルを、黙って静子に手渡した事があった。静子が人を信じられなくなった時、悩んだ時、向こう岸に行く橋になってやる…という英雄の愛情表現だと、静子は思った。一言も、英雄は言わなかったけれど、英雄にとっては精一杯のプロポーズの、気持ちだったのかも知れない。

静子はどんな事があっても、一生この一枚のレコードを自分の宝物として大事にしょうと思ったものである。

松本肇(因島三庄町)

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