ふるさとの史跡をたずねて【407】伝六⑦「陰騭録」

伝六が書いたと思われる功過自知録が市販本であるとわかった。その出版事情について記す。結論を単純に記すと、中国の明の時代に袁了凡(えんりょうぼん)が書いた『陰騭録』(いんしつろく)についていた付録の翻訳書であった、ということになる。しかし実際の話はもっと複雑である。

実は同じ頃に出版された『陰騭録』は2種ある。すなわち他に伯仕宋(はくしそう)のものがある。これらは「善書」と呼ばれる。今で言えば啓発書の類であろうか。

袁了凡の『陰騭録』には「功過格欵(かん)」(雲谷禅師伝)が付き、伯仕宋の『陰騭録』には雲棲袾宏の「自知録」「功過格」が付いていた。

中国では袁了凡の『陰騭録』の方がよく読まれた。そのせいか我が国でも元禄14年にこちらの翻訳本が出版された。その時、「功過格欵」ではなく、袾宏の「自知録」が一緒に収められた。

袁了凡の『陰騭録』(A+a)、伯仕宋の『陰騭録』(B+b)とするとわが国の翻訳書では「A+b」が袁了凡の『陰騭録』として出版された。理論編と実践編のうち実践編が入れ替わった訳である。のちにそれらが独立にA、bとして出版された。おそらくbの人気が高かったのだろう。前回のがbであり今回Aの写真右を載せる。(これも伝六とは関係なく入手したものである。)

このような変なことがわが国で可能であったのは、両者が似ていたから不自然でなかったということであり、実践編の方は袾宏のものがより優れていたので入れ替えたということであろう。

手元にある伝六関係のものと一致するのはbで、AもBも伝六関係のものはない。しかし実践編の方には項目と点数があるだけで思想的なものは理論編の方にあるだろう。伝六がAまたはBを見たという証拠はないが、bの思想的背景を探るのにはAを調べるのが良いだろう。したがって、袁了凡と彼の『陰騭録』に伝六の思想的背景を探ることは意義があるだろう。

※『陰騭録』については、『岩波哲学思想事典』による。

写真・文 柏原林造

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