因島文学散歩【15】明治橋付近(因島田熊町)
明治橋付近(因島田熊町)
終わりよければ全て良し、の反対は終わり悪ければ全て悪し、ということになるのであろうか。林芙美子と「因島の男」とのことは、家族の反対にあって、男が一方的に破談にしてしまったということで、後味が悪い。だから、その男が林芙美子に与えた、文学上の影響などを書くと、汚名挽回のような外観がつきまとうだろう。まして、それを因島の人が書くとなおさらそのように勘繰られるので、誰もその男のことを研究対象とはしない。だから、この件は『放浪記』という小説、それもその男との出会いがなければ思いつかなかったかもしれない小説形式による、一方の側からの証言によって、封印されたままである。
『放浪記』第二部では、土生港から来て、土生港から帰る。そこから男の家との間を往復する。
砂浜の汚い藻の上をふんで歩いていると、男も犬のように何時までも沈黙って私について来た。
「おくってなんかくれなくたっていいんですよ。そんな目先きだけの優しさなんてよして下さい。」
町の入口で男に別れると、体中を冷たい風が吹き荒れるような気がした。
(学研・現代日本の文学23、138頁)
大正12年に田熊村から海岸を歩いてから土生町へ入る。現在の地名で言えばどこを通るのだろうか。明治橋というのだから、明治時代には島前の海岸が通れたのだろうと考えて、ここを通ったとしておく。砂浜はもっと奥で、写真の傾斜地から平地に変わるあたりだろうと思う。
蛇足ながら、女心がわかってない、と非難されるのを覚悟で書く。造船所に勤める夫を送り出したあと、モンペ姿で八朔畑の草取りをする姿は、やはり林芙美子には似合わない、と私は思う。
(文・写真 因島文学散歩の会・柏原林造)
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