短編小説ユトリロの街【10】
この髪をこの唇をこの頬を触れし人よ君は神戸に
健吾さんに会いたい、何も話さなくてもいい、じっと傍に居るだけで幸せなのに、昨日別れたばかりなのに、何故か胸がしめつけられる。イーゼルを立て、キャンバスを置いても、絵筆が思うように運ばない。あれ程、次から次から描いていても、イメージが湧いていたのに、頭の中には健吾の事で一杯だった。
昨夜から降り始めた雨は、朝になっても止みそうになかった。麗香は、東側のバルコニーに面しているフランス窓を開けてみた。左にそびえ立つ観音山(奥山)も、木々が雨に打たれて、緑色がより深くなっている。麗香は雨降りは好きだ。「うっとうしいね」「よく降るね」と世間の人達が話しているのを耳にしても、被害さえなければ、一年中降り続いて欲しい位だ。蕾をふっくらとたくわえた、庭のライラックや、ラベンダーも、むしろ雨を待っていたかの様に、似合っていた。
この前の健吾との出来事は、想い出という言葉だけで残す事は、決して出来ない。千光寺山荘から、家まで車を走らせて送ってくれた、健吾の横顔を思い出すと、麗香の体の芯が疼いた。この胸の内から押し上げてくる感情は。何なのだろうか。
雨が止んだ後は、島特有のものなのか、海が霧を運んでくる。それはまるで雲の様に流れ、山荘付近に迄、被いつくしてきた。さっき迄、傍に居た健吾の姿さえ、見えなくなった。健吾さぁん…健吾さぁん必死で探してみるが、返事もない。不安になった麗香は、慣れている庭を手探りの様に探そうとするが、まるで綿の上を歩いているようにフワフワして、足が思うように進まない。
「好きだよ」
突然、背後から抱きしめられた。振り向いて、唇を寄せようとした瞬間、何時の間にか庭のロッキングチェアで居眠りをしていたのか、目が覚めた。
耳元で愛しき君の声聞いて夢と分かれど息吹残れり
さっき囁かれた右の耳だけが、まだ熱くほてっていた。
松本肇(因島三庄町)
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