ことばの輝き優秀賞作品 因島高校宮地さんが優秀賞受賞

広島県教育委員会が行なう、「ことばの輝き」コンクール(読書感想文部門)において、因島高校3年の宮地彩乃さんが優秀賞を受賞した。以下全文を掲載する。

ことばの輝き優秀賞作品

「変わる」ということ

因島高校3年 宮地彩乃

「頼むよ。私を一緒に連れて行ってくれ。この酸化する世界の夢から醒めさせてくれ。さあ、さあ、さあ」その時、私は胸が締めつけられる思いだった。凶悪な地下組織の幹部という肩書きを名乗る少年と見紛うような若い青年。今までずっと本性が見えなかった青年の本音が初めて見えた瞬間。大人になりきれていない青年の切実な願い。そう思うと、自然と涙がこぼれた。

私は昔から戦う物語が好きで、歴史ものからファンタジーまで、色々なジャンルの戦う物語を読んでいた。ある時、友人が薦めてくれたのは『文豪ストレイドッグス』という漫画=写真右=だった。ちょうどアニメが放送されていたので、漫画と一緒に見た。とても私好みの内容で、過去編が小説になっていると知り、さっそく購入した。最初は少し登場人物が違うだけで内容はわりと似たものだった。それぞれの立場の違いを超えて仲の良い青年たちが酒を酌み交わす光景を想像すると微笑ましかった。しかし、次のページから雰囲気は一変した。友人の失踪、裏切り、突如攻撃を仕掛けてくる犯罪組織。目まぐるしく変化する彼らの日常を、私は食い入るように目で追った。次のページではどんな展開になっているんだろう。私は息を呑みながら、時間も忘れて読み続けた。

私は小さい頃、まわりの友人に比べて体が弱かった。体が弱いといっても、風邪をひきやすかったり、稀に先天の偏頭痛に悩まされたりする程度なのだが、それでもすべてがみんなと同じようにはいかなかった。もともと話すことが苦手だということもあり、私は一人で過ごすことが多かった。その頃から私は本をよく読むようになった。人の少ない図書室が過ごしやすいというのもあったのだが、何故か自然と本に手が伸びた。中でも戦う小説はよく読んだ。戦う小説の主人公は、少なからず問題がある。それは肉体面だったり精神面だったり、みんなどこか欠陥を抱えていた。それでも抗おうとする姿には心惹かれるものがあった。『文豪ストレイドッグズ』に出てくる青年も、才能に恵まれたが心の成長がついていかず、もがいていた。私は早く青年を救ってほしくて、抗い続ければ報われるのだと信じたくて、どんどんページをめくって、物語を読み進めていった。

そしてクライマックス、私の求めていた青年への救いの手は思いもよらない形で訪れた。青年の友人の死に、私は胸が張り裂けそうだった。「ただ泣いている子供だ」と称された青年が、唯一無二である友人を失って普通でいられるはずがない。私は自分が絶望を見た気分だった。しかし、青年は変わった。友人の遺した言葉を頼りに、必死に生きようとした。驚いた。この青年がもし私だったなら、私はその場で友人のあとを追っていたかもしれない。そこまで私は強くなかった。やはり主人公はみんな強いのか、そう思った。だが違った。青年は決して強いわけではなく、「強くあろう」としていただけだった。大切な人を二度と失わないように。それを理解した時、私はすっと心が軽くなった気がした。

「人を救う側になれ。どちらも同じなら、佳い人間になれ。そのほうが、幾分かは素敵だ」青年の友人が最後に青年に遺した言葉だ。この言葉を聞いて青年は変わった。決して強くはない彼が変わった。だったら、私も変われるかも知れないと思った。体が弱いから、話すことが苦手だから、そうやって何かのせいにして逃げていたことにも、今なら向き合える気がした。

私は変わりたいと思った。強くなりたいと思った。大切な人を失わないように大切な人を救えるようになりたい。私には看護師になりたいという夢がある。それは漠然としていて、今になって何故看護師になりたいのか考える時がある。考えて、考えて、毎回辿りつくのは「死んでほしくない」という綺麗ごとのような思いだった。死とは命の喪失。人はいずれ死んでしまう。そして二度と会えなくなる。その事実を私は受け入れたくなかった。一秒でも長く生きてほしい。そのために何もできないより、少しでも何かできれば、万が一失ってしまった時でも罪悪感は薄いのではないか。そんなひどく利己的な思いもある。実際に薄れることはないのだろうが、それでもできる限りのことをしたい。私は人に奉仕したいという気持ちが特別に強いわけではないが、目の前で苦しんでいる人がいれば、助けたいと思う。今の私にそれができるとは思えないが、だからこそ変わりたい。できるようになりたい。すぐには無理かもしれないが、幸い看護師になるまで少し時間がある。自分の夢をつかむために、大切な夢をつかむために、大切な人を救うために自分を変えていきたい。

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