今朝一輪夕べ二輪と九輪の鷺草白く闇に浮かべり

掲載号 08年12月06日号

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半田ミチエ

 『お花や生き物に興味がある人はこの素晴らしい自然の神秘を感じる鷺草を見て誉めてくれ、興味が無い人は自分の隣に咲いていても 目もくれません』とは土屋薬局店主・土屋幸太郎氏の言葉で、氏は更に続けます。

 『蕾(つぼみ)が開いてくると思ったら、30分間くらいで花になります』

 この"30分間"に、神秘に反応する心が凝縮されているのでしょう。

 また、作者・半田ミチエ氏は歌人特有の美的感覚で鷺草と親しみ、闇中白浮の花姿に反応されました。

 その花姿は鷺の典雅に野草の純朴を加え、神が惚れ惚れと造形されたらしく、人を魅了してやみません。

 『……九輪の鷺草白く闇に浮かべり』と作者は詠み、その作品に接した鑑賞子は、闇中ほの白く舞う九輪の鷺草を想像し、感動しました。

 作者は『今朝一輪夕べ二輪』と詠まれているように、朝夕、丹精こめた手入れをされ、小さな変化に的確に対処されているのです。

 鷺草の美しさが人にどんな影響を及ぼすかについて、土屋氏は薬局店主らしく「こころの健康」に着目されました。

 『薬用でもない、漢方でもない、ハーブでもない、「観賞用」の「鷺草」。でも、人々は その姿に 自然の神秘を感じ、畏怖し、美しさを共有するのですから、「こころ」の健康に立派に役立っている』

 これに加え、歌詠みとして、意外な場所で思わぬ「美」を発見し、命の輝きを、より多く・豊かに表現したいものです。

 今宵の夢に鷺が舞い降りてくれますように。

(文・平本雅信)

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