紅葉なす山と凪ぎたる海見ゆる日溜り探して弁当開く

掲載号 08年11月29日号

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河内せい子

 この歌の中には、作業は何をしているのか、誰と誰がいるのかと言うことがどこにも書かれてはいないが、歌の前後の関係から、〈これはミカン摘みだ。〉〈夫婦二人がいる。〉の内容である。

 瀬戸内の島の木々が紅葉する時期と言えば、大体ミカン採りの頃である。しかも夫婦でやっていますという雰囲気のある歌である。午前中にあの木とこの木とあちらのをもう一本、というように計画を立ててのミカン摘み作業である。

「お前も仲々やるのー。」「あんたもようやる。」

 と、お互いに褒めあいながら、「もう弁当にするか」と、どちらともなく声掛けをしたところである。車を走らせれば家は近いのだが、弁当を朝作って出れば時間のムダがなくなる。

 歌の中では、海と山の紅葉が見えて、しかも日溜りという地形は、ちょっとした段畑で北風の当たらない場所である。昔なら梅干を入れた日の丸弁当だが、今ごろはどんな弁当を作っているのか覗いて見たくなる。

 11月も終り近くなると島の山々も紅葉をして来る。寒暖の差が大きければ大きい程に落葉樹の色付きも美しい。

 島の紅葉する樹種は、山間部とは違って、そのほとんどがハゼ(かぶれ)の木か、これによく似ているヌルデ(ふし)の木である。

 しまなみ海道を車で走っていると、島の海辺から山頂に向って、黄櫨(ハゼ)の紅葉、白膠木(ヌルデ)の紅葉、黄葉などが、渚辺から色を染め上げている。

 弁当を頬張りながら、紅葉した島山とべた凪の海を見ながら「もう4、5日この天気が続いてくれると、計画どうり、秋の穫り入れも済む」、と顔を見合わせながら言ったことだろう。

(文・池田友幸)

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