短編小説ユトリロの街【3】

【イメージ】因島市民会館で絵を鑑賞する人

初日という事もあってか、因島市民会館の場内は結構混んでいて、30人位の人達が静かに鑑賞していた。

『サンノアの通り』『コタン小路』『オルシャン街』…と見ていっている内に、さっきから足を止め、一点に見入っている、50歳前後と思われるダンディーな男性が、ふと気になった。

麗香は、一寸いたずら心が湧いてきて、その男性に声を掛けた。

「ムッシュ『古びた中学校』がお気に入りみたいネ」

「あぁ」

「何か、特別な思い出があるのかしら?」

麗香の質問には、何も答えなかった。

「旅行?ではなさそうね」

「仕事なんだ」

「何をされているのか、当ててみましょうか、ファッション関係?芸能界?それとも…」と、言いかけた時

「輸入雑貨の営業だよ、二、三ヵ月に一度は来てるんだ」と、その男性は言った。

「私、氷室麗香宜しくネ」

「私は塩澤健吾、神戸の三宮で、小さな店を持っている」

「ヘェー凄い、社長さんなんだ」

そう言いながら、わざと何気なさそうに、傍の佐伯の腕を組んだ。

「アミ(恋人)?」

「ウィ」

松本肇(因島三庄町)

因島市民会館

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