短編小説ショパンの調べ【3】
日曜の朝10時を少し過ぎた頃、英雄はやって来た。静子の父も母も、妹の芳江も英雄に対して好意的で、二人の交際に対して、とやかく言う者は、誰も居なかった。
英雄の後ろについて、初めて相手の家に向かっている静子は、段々と不安になっていた。町からはずれて、山の方へ行っている。もうそこは、車も自転車も通れない、道幅20センチ程の山道になっている。
「静ちゃん、ここが僕の家だ」
目の前の、竹薮の群落の傍に、小屋と思える小さな家の前で、英雄は言った。
家は、傾きかけて、障子は所々破れかけている。英雄の案内で、家の中に入ると、そこは6帖程のタタキと4帖半の部屋が二つあるだけの、家だった。
幼くして、両親を亡くした英雄は、口の効けない叔父と二人で暮らしていた。いくら愛があれば、家柄など関係ないと思ってみてもこれでは余りに酷過ぎる。
結婚すれば、アパートにでも住む事は出来るが、家と家の付き合いが、いつまでも問題になってくるのは明らかである。静子の心は、迷いに乱れていた。
松本肇(因島三庄町)
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