続・井伏鱒二と「因島」余録【4・完】昭和六年 土井家弔問から

そもそも、全集を刊行する際には、全集を刊行する意図、編集方針、どの刊本を底本にするかという明確なものが必要だと思う。以前、本紙の『続井伏鱒二と「因島」』で述べたが、『井伏鱒二全集』(筑摩書房・2000年)、所謂『新全集』の刊行の方針には明確な意図・方針がある。井伏作品は、井伏本人の意志によって加筆訂正が頻繁に行われた。また存命中の全集刊行の際には多くの作品が割愛され、いわば「自選全集」的な性格があった。『新全集』は「井伏鱒二が発表した全ての作品を収録する」とし、「底本には初収録の刊本を用いた」という明確なものがある。この『新全集』の刊行により、井伏の「因島」に関わる作品を味わうことができた。私は、この『新全集』は全集の手本のようなものだと思っている。

これに対し、『林芙美子全集』(昭和52年・文泉堂出版)の内容見本には、これまであった『林芙美子全集』(新潮社版23巻・昭和26年)には「欠落した作品が多く、その上編集上にも若干不統一の面がある」ので「欠落した作品」を補って、「若干不統一」を直して刊行するというのである。にもかかわらず、この新潮社版の『林芙美子全集』を「底本」としたとある。しかし、実は正確には「複写」である。さらに「複写」本である新潮社版には、編集の方針が不明であり、「底本」についても不統一である。また、文泉堂版全集の「精密正確な年譜と著者目録」とある「年譜」についても、昭和6年の年譜を井伏全集と比較したが、極めてとても「精密正確」とは言えない。

昭和26年に48歳という短い生涯を閉じ、さらに研究者にも恵まれなかった林芙美子。平成5年95歳の天寿を全うし、優れた研究者に恵まれた井伏鱒二とはあまりも対照的である。

(石田博彦)

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