明暗表裏の夢の架け橋 しまなみ海道全線開通 そして・・・橋桁になる島々

海の玄関、尾道市を起点として芸予諸島の住民が一体となって鐘や太鼓で「夢の架け橋」建設促進運動に取り組んで約半世紀。99年5月1日、本州四国連絡橋3ルートのうち広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ西瀬戸自動車道「瀬戸内しまなみ海道」が一般国道を併用して開通した。

高速道路と結ばれる生口橋

高速道路と結ばれる生口橋

 このルートの暫定開通により本州・四国間を結ぶ新たな広域交流圏が形成され行政、産業、文化などさまざまな分野での発展、交流が期待された。9つの島と本州、四国を結ぶ生活橋として離島性を解消、生活環境も大きく変った。

その一方で、ピーク時に年間300万人を飲み込んだ観光地は嵐のようにブームが去り、兵(つわもの)どもが夢の跡。激減傾向の観光客に勝ち組も頭が痛い。このままでは巨大な架け橋の橋桁になってしまうのでは―という不安な声さえ聞こえてくる。

(村上幹郎)

島々が陸つづきに

本州四国連絡橋公団が設立されたのは70年7月。そして83年12月、全長1270メートルの当時東洋一の巨大美人橋を自負した斜張橋「因島大橋」が開通した。総事業費約650億円。

観光客が因島へどっと繰り込んできた。観光とは縁の薄い「造船とみかんの島」は、道路や駐車場の整備が遅れていたため各所で車が立ち往生した。初めての経験に経済波及効果どころか「二度と行くまい因島」という印象を与えさんざんだった。

この顛末を尻目にかけながら対岸の瀬戸田町は生口橋の開通に照準を定め受け入れ整備を進めた。もともと西の日光「耕三寺」や「平山郁夫美術館」の文化観光ゾーンを中心に観光地としての町づくりが進められていた。

91年12月、生口大橋開通。観光バスやマイカーで連日島内一周道路は混雑したが年間300万人の日帰り観光客を受け入れた。

四国側からは79年5月、大三島橋が開通。88年1月伯方・大島大橋。99年5月、新尾道大橋、多々羅大橋、来島海峡第一・第二・第三大橋が完成し「しまなみ海道」全橋が完成したが、高速道路のうち生口島と大島の2つの未開通区間は一般道路と結んで暫定供用を開始した。陸上部門を合わせ橋総工事額は7300億円。

5月連休前に全通

しまなみ海道供用は暫定的で、県内では尾道市管内の生口島の島内道路延長6.5キロメートルは未供用であり国道317号を迂回して多々羅大橋インターに結んでいた。

四国側は今治市管内の大島道路延長6.3キロメートルが未完成で、この2カ所は国の直轄事業として05年度目標に工事を進めていたが生口橋下りインター付近の岩盤の掘削工事に難所が出て開通が1カ月遅れた。国土交通省福山河川国道事務所によると5月の連休までには暫定供用できるという。さらに9月完工めざし緊急進入路2カ所を設け完全供用の運びとなる。

開通により尾道から今治までは、全長59.4キロメートルで、2つの小島を含む9島10橋、約10万人が住んでいる。離島性を解消させ、広島空港へのアクセスも便利になり、通勤・通学、買い物、レジャーなど生活面での利便性が高まり生活圏が拡大した。だが、渡橋の通行料はいかにも高い。

地元民の意識は生活橋として認識

架橋により人の移動や物の輸送は船から車になった。広域化が促進され、地域社会・産業に大きな効果が生じてきた。地元民にとっては生活橋という認識が強い。山陽自動車道と比較すると、尾道から広島まで約70キロメートルで普通車料金は2千円。しまなみ海道は尾道から今治まで約60キロメートルで4700円。橋の建設費用が高かったとはいえ、あまりにも差がありすぎる。

本州・四国を結ぶ生活橋として離島性を解消させ、沿線の島々で暮らす住民の生活環境の向上に大きく寄与する目的の代償にしては負担が重い。

本州四国連絡高速道路(株)(神戸市)は「通行料の値下げによる利用者増が見込めない」と消極的。しかし、関係自治体は平成の大合併により同じ市の中を移動するのに橋しか移動手段がない住民や職員に対しノンストップ料金収受システム(ETC)車載器購入の補助事業を実施、尾道市も5月から始める。本四高速も民営化されたのだから、通行料の高いのが地域活力のネックなっている料金体系を柔軟に考えるべきではなかろうか。

建設が進んでいる中国横断自動車道尾道松江線としまなみ海道が結ばれる日は、そう遠くない。観光だけでなく経済・産業面の利用増も期待でき通行車両の増加は見込めるはずだ。

勝ち組瀬戸田の転機

しまなみ海道供用暫定開通当初で観光客誘致をひとり占めしたのは瀬戸田町だろう。官民一体となって受け入れ準備に取り組んだ効果である。生口橋と多々羅大橋でいったん島内の一般道路をいやおうなしに通行する「漁夫の利」があったことも否めない。

だが05年度は観光入り込み客は約75万5000人とピーク時の4分の1に減った。瀬戸田港から耕三寺に通じる門前通り「しおまち商店街」も、かつてのにぎわいはなく平日は閑古鳥が鳴くありさま。シャッターが下りた店舗が目立ち、歩行者天国は車乗り入れ道路になった。世界の柑橘を集めたシトラスパークのある島の南側を通る国道317号線は5月の連休前から自動車専用道路が開通するため通行量が激減するだろう。

地域として明確なコンセプトを

一般住民は静かな生活に戻るが沿線に店舗を構えたコンビニや喫茶店などは打撃を受ける。なかでも全国有数のブランドを自負する「高根みかん」の専門店を8年前に出店、年商1億円を目標に「しまなみ道の駅」の開設準備をしていたシトラス農園の波戸岡伸夫社長も次の一手を模索する。

これまでも、しまなみ海道は通過型の日帰り観光コースのため地域の個性をどう描くか、過疎にも柔軟に対応できる橋との共存、さらには海上交通を見直す転期を迎えている。そして、近い将来、全国で約2万近くの集落が消滅する危険を抱えているといわれ、過疎地を一律でくくるのでなく、人口は少なくても都市機能を集積、生産性が高い町づくりを図るべきだろう。

全通により「橋げたの島になる」という不安の声があるが、通過点になっても造船関連産業を基幹とした物づくりの島もあり、それに加え日本のエーゲ海と呼ばれるアジアで特有の内海地域として明確なコンセプトを打ち出していく必要がある。さらに道州制を視野に入れ山陰、山陽、四国地方と連携、幅広い議論を期待したい。

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