続・井伏鱒二と因島【18】その作品に表現された「因島」

掲載号 13年06月01日号

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続いて小説「因ノ島」の内容についてであるが、「井伏文学のふるさと」(2000年9月22日ふくやま文学館)には次のようにその内容が紹介されている。

戦後の疎開中のこと。「私」は、因ノ島の中田医師のさそいで、そこへ釣りに行く。医院に着くと、島の警察署長が医院のモーター船の借用を頼みに来ていて、結局、医師と「私」の釣りに、署長が、警官の運転手つきで便乗することになる。署長の目的は闇船の逮捕である。翌朝、モーター船は一艘の帆掛船をつかまえ、署長が尋問する。

「積荷の種類は、何と何だね。」

「イリコであります。千二百五十袋あります。全部、イリコであります。」

「つまり、名産のニボシだね。これが統制品だといふことを知つてをるだらう。投錨目的地は、どこだ。」

「因ノ島の一ばん南の、とつさきの地蔵岬=写真㊦=の、一浬の沖で待つてをれ、さういふ注文を受けて来たのであります。誰かが、船でイリコを受取りに来ると思つて、あの辺をぐるぐるまはつてをりました。はじめ、貴方のモーター船を、イリコの受取人の船かと思つてをりました。しかし自分らは、誰がこの船のイリコを受取つて行つてもよいのです。もし確かな受取証さへ書いてもらへば、相手は誰だろうと痛痒を感じないのであります。船乗りありますから、注文通りの場所まで、積荷を大事に送り届けさへすれば、よいのであります。」

署長は一と先づ訊問を打ちきると、応急の対策について中田老人の意向をうかがつた。このモーター船で、帆掛船の船頭たちを本署まで連れて行きたいので、暫時のあひだ老人と私たちに、帆掛船に乗り移つて魚釣りでもしてゐてくれないかと云ふのである。

釣りは好調であった。夕方、署長が、「若い女の溺死体を収容していたので遅くなった。」と言って、モーター船で帰ってきた。その夜、「私」は、署長の招待で、港の料理屋でご馳走になる。歌を歌い、踊っていた署長が部屋を出たと思ったら、しばらくして、窓の外から、異様な叫び声と叱声が聞こえてきた。(つづく)

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地蔵鼻岬(因島三庄町)

(石田博彦)

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