寺の苑われとボタンは傘のうち春の愁いのいつかほぐれる

掲載号 08年05月03日号

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味呑 泰子

 人によって花の好みは異なるが、一輪の花の中では、ボタンの花が花の王者のように言われている。昔から奇麗な女性のことを指して「立てばシャクヤク座ればボタン歩く姿はユリの花」と俗謡的に言われているとおりに美しい花である。

 この近くには、尾道市内にある天寧寺がボタン寺と呼ばれており、多くの人が鑑賞に訪れる。日本全国にはボタン寺、サツキ寺、アジサイ寺など、その季節に似合った花を咲かせている代名詞で呼ばれ、観光名所としている寺社仏閣はどれほどあるだろうか。

 また、秋にはハギ寺、モミジ寺、キク寺などがあるかも知れない。いずれにしても、お寺さんの庭や敷地内にボタン苑を造るのは大変である。寺の住職さんの理解と檀家の人々、地域の人々の協力があって続けられる。

 この歌の作者は、花好きな人であろう。人には色々な好みがあって、玄関や庭先にどんなに奇麗な花を咲かせていても、知らんぷりで帰る人もおれば、そこに咲いている花が恥ずかしくなるほどに、矯(た)めつ眇(すが)めつ見て褒めていく人もいる。人それぞれで世の中は面白いのである。「今日はいい天気だ、天寧寺のボタン苑もいいね」、ぶらりと、来たのである。あまりにも美しく、己れが春とばかりに咲き溢れているボタンの花、花芯の底の紅と縁どりの紅、真っ白のもつ清らかさ、花花花にうっとりと見惚れながら「今の私はボタンの花と二人連れ、どう似合うでしょ」。遮光用の傘をくるくる廻しながら見巡っている。この歌の中の「春の愁い」とは身上的な心配ごとではなく、一寸した情緒的ないわゆる軽い気分的な「もの想い」である。

(文・池田友幸)

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