戦争を知らない首相は坊ちゃんで一票ありても私は入れない

掲載号 07年09月29日号

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土居 瑠子

 昨年の八月に安倍さんが自民党の総裁選に選ばれ、首相に着任したときの感想を社会詠風に詠まれた短歌である。一首を読み通して見るときに、小むずかしくなく口語的であって、その折の心情が率直に述べられてある。

 「なあーんだ、戦後生れの戦争を知らない総理大臣か…」

 と思いながら、それにしても坊ちゃん(ぼんぼん)顔をしていて、色の白い紳士風でこんな柔(やわ)な人に首相という激務がやっていけるかな。

 「もし私に投票権があっても私は入れない」

 言い切っているところにこころよい共感を憶える。

 一国の首相として着任早々の所信表明の中に何度も「美しい日本の国づくりをする」と述べていたが決して悪い言葉ではないものの何か奇麗ごとめいて聞えていた。

 この短歌を詠まれたのが昨年(平成六年)の八月だから丁度一年である。総理を受けての門出は、かつての小泉劇場風の余勢をかりての船出であったが、相継ぐ閣僚の不祥事、年金その他により安倍坊ちゃん内閣は参院選に予想を越えた大敗をした。この大敗の要因を評論家や物知りの人々は色々とおっしゃっているが、一つにはいかにも強烈であった小泉劇の反動の吹き返し、二つには与党の一人勝ちによる強行採決などへのしっぺ返しによる坊ちゃん内閣の崩壊である。

 「もし私に一票あっても入れない」

 この言葉は大声ではない、独り言のように戦争体験者の一人としての感慨をこめて歌ってあって、一年後の今日の「最悪のタイミング」を暗示している。

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