海中の忍者 – マダコのはなし

マダコの名前

マダコは漢字で『真蛸』、英名は『Common octopus』といいます。『octopus』の“octo-”は、“8”の意味。“- pus”は“足”を表すので、『8本足』という意味です。


マダコのすがた
マダコ タコの絵に描かれている“ひょっとこ”のようなもの・・・じつは、くちではありません。『漏斗ろうと』という一種の排泄器官です。
この“漏斗ろうと”で排泄物を出したり、酸素を取り込んだり、産卵したり、黒い墨を吐いたりします。“タコのくち”は、8本足の付け根にあります。

多くの人たちが「タコの頭」と呼んでいる部分は、じつは“胴”で、この中に内臓が詰まっています。
マダコの生態
潮間帯から水深200m辺りまでの岩礁地帯や砂泥底に多く棲息します。夜行性でエビ、カニ、貝、魚などを食べます。
オスは、“交接腕”とよばれるヒモ状で吸盤がない足を1本もっています。繁殖期になると、この“交接腕”の先に精子の入った袋(精葵せいきょう)をもち、この腕をメスの体内にさしこんで精子をあずけます。
メスは、精子を2、3週間体内に保存し、その後受精させて産卵します。マダコの産卵期は夏で、岩陰や海藻の間などに卵の入った“卵嚢らんのう”を産み付けます。
母ダコは、“卵嚢らんのう”を隠れ家の岩穴などの天井へ多数の房状にして生みつけます。1つの房には100個以上の米粒大の白い卵が“藤の花”のようにぶら下がります。母ダコ1尾の産卵数は、15万個ほどです。
母ダコは、卵にゴミがつかないように腕で撫でたり、つねに新しい水に触れるよう“漏斗ろうと”から綺麗な海水を吹きつけます。卵は数週間でふ化しますが、母タコはその間、餌をまったくとらずに卵を守り続けます。そして・・・ふ化を見届けると、その一生を終えます。寿命はおよそ1年です。
マダコの忍術其の一・保護色の術

マダコは、周囲の環境に合わせて体色を変えることができます。岩などの色と同じ色に体色を変化させるので、とても見つけにくいですね!タコは“赤色”というイメージがありますが、じつは“赤”は死んでしまった色なのです。
マダコの忍術其の二・通り抜けの術

マダコは、ものすごく狭い隙間でも通り抜けてしまいます。自分の足が1本通る隙間があれば、その体をも、通り抜けることができます。海岸で獲ったマダコをバケツに入れて網で覆いをしていたのに、翌朝には姿を消している・・・なんてこと、よくありますよねっ!
マダコの忍術其の三・煙幕の術

タコの仲間は、体の中に“墨袋”をもっています。ウツボなどの敵に襲われたとき、“漏斗ろうと”から勢いよく水を吐き出して、その水の反動で逃げ去ります。そのとき、同時に墨を吐き出して、敵の目をくらませます。タコの墨は、敵から逃げるために“煙幕”のように使われます。

一方、タコの様に墨を吐く生き物にイカがいます。イカの墨は、タコの煙幕のように拡散せず、あたかも自分の分身の様に、吐き出されたその場に残ります。タコの墨は粘性が低いため海中で拡散しやすく、イカの墨は粘性が高いため海中でひとかたまりになります。

筆者紹介

阪本憲司
阪本憲司福山大学生命工学部海洋生物科学科 准教授・博士(農学博士)
尾道の対岸に浮かぶ向島むかいしまに移り棲み、かれこれ20年近くになります。向島は、”しまなみ海道”をつなぐ島のうち、尾道側から一番目の島になります。向島の最高峰『高見山たかみやま』の山頂展望台から眺める風景は、季節や時間を問わず、いつでも素晴らしく、風光明媚な瀬戸内の自然を存分に体感できます。

私は京都市に生まれました。その後、長崎(佐世保)、三重(伊勢)、徳島(小松島)、岩手(盛岡)、宮城(仙台)、広島(尾道)と日本各地を転々としてきました。これらの地の風土に暮らし、さまざまな自然の姿をみてきたことで、ほかにはない”しまなみ”の素晴らしさを実感しています。

『しまなみ海中散歩』と題したこのコーナーでは、瀬戸内海のことや、ここに棲息している魚介類のことなどを皆様に紹介してゆきます。どうぞよろしくお願い致します。

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