続・井伏鱒二と因島【25】その作品に表現された「因島」

また、「捕物演出」には次のように書かれている。

捕物演出

井伏 鱒二

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去年の夏、私は二人の友人といつしよに因ノ島に釣りに行き、偶然の事からその島の警察官と知り合いになつた。いろいろ四方山の話をした末に、警察官は「この島の壬生町(ママ)といふところにお泊りになりませんか、なかなか蘊蓄ありげな町です」と云つた。それで私達は壬生町(ママ)に泊ることにした。

するとまた「何々という宿にお泊りになりませんか」と云う。警察官は私達をその宿に案内して、ついでに裏座敷の二階へ案内してくれた。何と云う親切な巡査があるものだろうと私たちは感心した。その夜、私達は酒の勢で詩をつくり大声で自作の詩をうたつた。

親切な巡査は私たちの部屋にちよつと来て「大いに愉快そうですな。感興のおもむくままに存分に歌つ下さい」と云つた。そうしてすぐ帰つてしまつた。ところが暫くたつと、不意に隣りの家で騒がしい物音がした。細い道を隔てて直ぐ隣りの家の二階で騒ぐのである。「おい動くな」と云う声が聞えた。私達は窓から外をみて、きつと夫婦喧嘩だろうと云つていたが、間もなくその家から三人づゝ数珠つなぎにされ三組の数珠つなぎが出た。賭博で挙げられたものであることが頷かれた。私の連れの一人は「なるほど、そうか」と彼自身の膝を打つた。

「僕たち酒のみだから、飲んで騒ぐことをあの巡査は知つてたんだね。道理で、賭博場と目と鼻のところへ案内してくれたんだね、しかし見事な腕前だ」

その前日の夜、私達はこの島の田熊というところで一泊した。その夜、私達は親切な巡査と知合いになつて、酒が飲みたい気持ちを相手に打ちあけていた挙句である。巡査は捕物をするために、一つの迷彩として、私達の飲んで騒ぐ声を有利に使つたものに違いない。

翌朝、私達が食後のお茶をのんでゐると、そこへまた親切な巡査が来て「昨晩は失礼しました」と云つた。にこにこと笑つてゐた。

「警察さん、あなたはなかなか演出家ですね」私の友人の一人はそういつて私たちはいづれもちよつと笑ひ崩れた。

「みなさん、またどうかこの島へおいで下さい。本土では(島でなくてはという意味だが)こんな経験は得られでせう。いかにも島の出来事といつた感じでせう」とその親切な警察官が云つた。

「いやお見事でした」

私の友人は答へた。

(石田博彦)

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