「みかん蜂蜜」のお父さん

柑橘の有名な因島は春、特に5月に入ると島中がみかんの香りに包まれます。そして、そのみかんの花が咲く約1ヶ月半の間だけに、みかんの香り一杯の「みかん蜂蜜」が採れるのです。あの香りといったら、他の蜂蜜なんて比じゃあない、それはもう芳しくって柑橘のツンとくる香りは、やみ付きにります。

そのみかん蜂蜜がどんどん採れなくなっていると知り、現状をレポートすべく取材してきました。お話ししてくださったのは、因島で養蜂を始め、みかん蜂蜜を送り出しつづけて50余年の大ベテランの藤原勇さん(81歳)。昭和30年ごろからミカン畑の柑橘栽培をやりながら、最初は兼業で子どもの学費を稼ぐために始めたそうです。

まず養蜂の一年のサイクルから教えてください

わたしたち養蜂家は、それぞれの花の季節にミツバチを移動させます。蜜源交換といって、花の蜜を交換し合うのです。いったん蜂を移動させると10日から2週間に一度しか普通は見に行かないので、それとともにお互いに情報交換もしています。

「そろそろ花が咲き出したから、ぼつぼつ来てえーよ。」

「クマバチが出たからミツバチが危ないよ。」

などと、花の様子やミツバチの様子を互いに知らせ合います。

昔は、4月にはレンゲの花が咲くので、蜜を求めて福山方面へ行っていましたが、5月ミカンの花が咲く時期には福山の方から昔は20名以上の養蜂家が因島に来ていました。今、外から因島に来るのは一人だけになりました。

そして6月はフクラシの花、7月は栗の花、8月はジョウボウの花と、ミツバチの越夏を兼ねて上下町(現在、福山市)の方へ行きます。ミツバチは暑い夏が苦手で、巣箱の中で蒸れると死んでしまうのです。それを「蒸殺(じょうさつ)」といって、昔は船だったので移動に時間がかかって、巣箱の蜂を全部だめにしたこともあります。かわいそうなことをした。

※ フクラシはソヨゴ(学名Ilex pedunculosa)の別名。フクラシというのはクロガネモチに似た木で、白い小さな花が咲きますが、わたしたちのフクラシ蜂蜜は、5月のみかん蜂蜜がまだ巣箱になんぼか残っているから美味しいと言われますよ。

それから9月になってやっとミツバチは因島に帰ってきます。年内に越冬準備をし、2~3万匹で冬を越します。冬の間もエサをやります。エサは砂糖で、上白糖のえーのをやっぱり使います。

そして2月梅や水仙の花が咲き出すころ、春の支度を始めると、産卵です。20日で幼虫になり、15~20日で働き蜂になります。

ミツバチについて教えてください

働き蜂の寿命は40~60日で、1匹が生涯に採る蜂蜜の量は、ティースプーン約1杯分しか採れません。一日花と巣の間を60往復して、1回につき目薬3滴分の蜂蜜を運びます。

蜂の巣箱には約6万匹の働き蜂がいて、その中の蜂蜜を採る働き蜂はすべて雌です。6万匹の中のたった一匹だけが女王蜂とよばれる蜂で、巣箱の中のすべての蜂を、女王蜂1匹で産み落とすのです。女王蜂は2~3年間一つの巣箱に一匹だけが君臨し、春は毎日産卵しています。4・5月の時期になると、一日に約3千個の卵を産むので、どんどん蜂が増え、1つの箱に約5万匹くらいになると蜂蜜がやっと取れるようになります。

それとミツバチには花の蜜だけではなくエサとなる花粉もいるのですが、畑の野菜、特にハクサイやネギが好みのようです。大根はあまり好きじゃないみたい。

皆さんの畑に飛んでくるミツバチももしかしたら、わたしらのところから来ているかもしれません(笑)。

刺されたりしないんですか?

もし誤って蜂をつぶしたりすると、刺してきます。ギフンといって、匂いを出して、一斉に攻撃してくるのです。そういう時は、よもぎの薫煙で収めます。その香りを吸うと蜂も大人しくなる。

それから、やはりお腹に蜜がないと攻撃性が強くなりますね。蜂蜜がたっぷりある採蜜する時期なんかは、大人しいです。クマバチは、9月頃よくニュースで人が刺されて死んだと報道されていますが、それは夏が終わり花(蜜)が少なくなってくる時期ということです。その頃には蜜を狙って、ミツバチも襲います。ですからお盆の時期を過ぎたら、「クマバチ除け」を巣箱にしかけます。蜂の習性を知って先手をうつということです。

蜂蜜はどうやって採集するのですか?

ミツバチが花から採った蜜は、採って来てすぐわたしたちが食べている蜂蜜になるわけではありません。次の工程のような蜂の働きと頑張りがあって初めて、「花の蜜」から「蜂蜜」になります。

  1. 年上蜂が巣箱と花を往復して、花の蜜を運ぶ
  2. 巣箱の中の若い蜂が、年上蜂から採ってきた蜜を口移しで受け取る
  3. 若い蜂の体の中を通してろ過された蜜を巣穴に移す
  4. 羽を使って蜜の水分を飛ばして、濃度を濃くしていく
  5. 花から採ったばかりの蜜は糖度20度。蜜蜂のがんばりで糖度80度に。

糖度70~80度くらいになると自分で蜜の入っている巣穴に蓋をし始めるので、それを目安に蜂蜜採取をします。

作業は朝4時半から始めます。日が昇るとすぐに蜂が働き出すので、取ってきたばかりの薄い蜜が入らないよう純度を保つためです。

まず最初に湯を沸かします。それから一つの巣箱に16~17枚入っている巣の板を、一枚ずつ取り出して、沸かした湯の蒸気で包丁をぬらした蒸気包丁で蜜の入っている巣穴の蓋を切ります。

そしてその板を遠心分離機にかけます。この仕事が重労働で、一枚の板がだいたい3㎏ぐらいしますから、一つの巣箱が約70㎏。年をとってくると大変です。

そして一斗缶に詰め、瓶詰めし完成です。純粋蜂蜜は温度が低くなると結晶します。みかん蜂蜜は結晶しやすいという特徴もあります。

最近はちみつが採れなくなってきていると聞きますが

ここ3~4年内に、蜂が巣箱から一斉に出て行ったきり、帰ってこないという現象があちこちでおきています。因島ではまだないのですが、はっきりとした原因は分かっていません。ただ、蜂はとても農薬には弱く、いったん農薬が体にかかってしまったら、自己防衛本能から巣には帰ってきません。万一巣に帰ってきて入ろうとしても、番兵役の蜂が、かみ殺してしまいます。
ミツバチヘギイタダニという蜜蜂につくダニも最近、繁殖しています。密源となる花も減ってきています。レンゲ畑が減ったのは、田んぼの減少もありますが、タコゾウムシといってレンゲの根っこを食べる虫が今、問題になっています。

因島でも、みかん農家の高齢化とともにみかん畑が減り、みかんの花が少なくなって、みかん蜂蜜も採りにくくなっています。やはり30年前を思い出すと寂しい。5月になるとそれはすごいみかんの花の香りでした。今でも青影トンネルを出た辺りで予防する前には香りますね。みかん蜂蜜も、昔に比べれば色も香りも薄れたように思います。

うちのような中小規模の養蜂ではなかなか大変です。100箱以上でないと養蜂だけでは食べていかれないので兼業では大変ですよ。組合費、蜂の検査料、人件費、箱代もかかります。天候やその年によっても違います。また1、2年で飼えるものじゃない。5年、10年でやっとできる。手入れによっても違います。

温度調節のため巣箱に巣板を入れたり減したりもしますが、箱の中の温度と外の温度が違いすぎると、巣箱を出て飛んでいる最中に冷えて死んでしまいます。ミツバチは時速30kmで半径4kmの範囲を飛ぶので、飛んでいるときは寒い。昔は生口島にも蜂が蜜を採りに出かけていっていて、帰りに海で冷え、竹長の海岸によーけ死んどるのがおりました。

手伝いは家族がずっとしてくれています。特に女手が大事。やっぱり百姓は女がおらんとできんですわ(笑)。蜂を通じて家族三世代でやらせてもらってます。

あと子どもたちには「ミツバチは怖い」ように教えちゃいかん。子どもたちにミツバチはすごいということを伝えにゃいけんと思っています。

蜂蜜を使ったいろいろなデザートが人気のカフェ「夢ぅ」をお孫さんが開店されましたが、そのことについてどう思われますか?

実は80歳過ぎでもゆっくりする間がなーて、まだ食べに来てやる暇がないんです。こういうことを始めるけえ、よけい蜜も作ってやらにゃーいけん、思ようります(笑)。

お孫さんが開店した因島田熊町にある「カフェ夢ぅ」の様子。

Cafe夢う(カフェむぅ)
営業日 金曜、土曜、第1日曜
cafetime 10:00 – 18:00
ランチtime 11:00 – 14:00
TEL0845-22-5466


当日のインタビューの様子です。

筆者紹介

大西好樹
大西好樹PRプランナー
芸術は爆発だ!の岡本太郎氏制作の「太陽の塔」がある大阪府吹田市生まれ。

関西学院大学卒業後、東京のPR会社で国内、海外の企業や団体やサッカー、テニスなどスポーツイベントのPR活動を担当。

2002年11月から妻の古里である因島に活動の拠点を移し、デジタル画像処理会社や家具メーカーの広報活動を支援し、現在は造船、海運を中核とする企業グループに在籍。

因島の読み聞かせグループに参加し、小学校などで好きな絵本を子どもに語っているおっさんです。

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