学生が見た平成の大合併を検証 卒業論文・市町村合併 広島県豊田郡瀬戸田町を事例に【8】

掲載号 06年06月17日号

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 柴田町長は、「単独町制ではやっていけないから合併する」という従来の方針を転換し、「当面は単独で行き、新しい合併の枠組みを探す。平成17年3月31日までに合併申請という『市町村の合併の特例に関する法律』の期限には縛られず、期限なしの合併を考える」とした。

 しかし、因島市と瀬戸田町の財政状態は危機的である。とりわけ瀬戸田町の財政状態は深刻である。借金を意味する公債残高は、因島市が約102億円、瀬戸田町が約68億円。人口比では瀬戸田町が約2倍の借金である。

 さらに両市町には国の三位一体改革が直撃し、交付税も激減したため、年度予算の策定もままならない状態なのである。一方で、「市町村の合併の特例に関する法律」では、合併後10年間にかぎり、国が7割を負担する「合併特例債」の優遇が受けられる。平成18年以降の合併申請では、この財政上の特典はない。つまり、期限内に合併申請しない市町村には合併特例債は出ないということだ。ほぼ例外なく極度の財政危機を深める全国の市町村にとって、合併特例債は大きな魅力である。借金とはいえ、それを財政的な裏付けとして、財政再建をすすめて行くしかない。

 合併が1市1町の場合、合併特例債は約98.7億円出る。この活用をぬきにしての今後の自治体運営は成り立たないと言っても過言ではないほど困難であり、瀬戸田町は非常事態に追いこまれている。

 お互いに危機的な財政状態にありながら、瀬戸田町の離脱によって合併協議が進まなくなってしまった因島・瀬戸田両市町を見かね、平成16年8月20日、尾道市の亀田良一市長が「合併の相手がいないのなら、尾道市はこれを受け入れる用意がある」との申し出をした。

 尾道市は隣接する御調町、向島両町との合併を平成17年3月28日に控えている事情から、因島市、瀬戸田町との合併は平成17年3月末まで(平成17年度中に申請)の合併を働きかけた。

 両首長が受諾し、平成16年度中に合併協議会を設置して協議に入れば、両市町は合併特例債を使うことができる。また、尾道市としては、平成16年10月に発足する、尾道広域市町村圏事務組合などの、しまなみ海道を軸にした諸施策を円滑に進めることができると考えたのである。

 しかし、亀田尾道市長の申し入れは、対等合併ではなく、新尾道市への編入合併である。瀬戸田町と因島市の合併協議会は対等合併を目的として設置されたものである。それを尾道市への編入合併へと転換するにあたっては、住民へのていねいな説明をやり直し、合意を取り付ける必要がある。また、瀬戸田町には、県が示していた尾道広域での合併を断り、三原広域での合併を目指したという経緯もある。

 これを受けて、「柴田町長では尾道市と合併することもできない」と、合併を考える会が柴田町長の解職請求(リコール)を求め、署名活動を開始した。もともと、合併を考える会は、瀬戸田町と因島市が合併することのみを目的としていたわけではなく、この両市町が合併した後に尾道市と合併し、しまなみ海道を中心とした都市の形成を理想としていた。

 しかし、瀬戸田町と因島市の対等合併が事実上不可能になってしまったため、せめて両市町が尾道市に編入合併されれば、しまなみ海道を中心とした都市は成立すると考えたのだ。

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