学生が見た平成の大合併を検証 卒業論文・市町村合併 広島県豊田郡瀬戸田町を事例に【1】

掲載号 06年04月15日号

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Ⅰ はじめに

 現在、「平成の大合併」と呼ばれる合併が日本中で行われている。「平成の大合併」とは、「市町村の合併の特例に関する法律(昭和40年3月29日施行)」が改正された、平成7年3月29日以降に行われた合併のことを意味する。「平成の大合併」第一号となったのは兵庫県篠山市(平成11年4月1日合併)で、この合併を皮切りに日本全国で数々の市町村合併が行われてきた。この改正された「市町村の合併の特例に関する法律」の有効期限である平成18年3月31日までには、法改正前には3232あった市町村が1821にまで減る予定になっている。

 「平成の大合併」の最も大きな特徴は2つある。ひとつは合併特例債制度で、これは、合併後10年間、市町村建設計画に基づく建設事業について地方債の借入れ(国が7割を負担)ができるという制度である。つまり、地方自治体は、合併をすれば多額の補助を国から受けることができるのである(借金ではあるが)。多くの市町村が合併に踏み切ったのは、この合併特例債制度と、小泉内閣の「三位一体の改革」のひとつである地方交付税の削減が大きな原因となっている。平成の大合併は、政府の「アメとムチ」と呼ばれる合併推進策によって推し進められてきた。この「アメ」の最たるものが合併特例債であり、「ムチ」にあたるのが地方交付税の削減ということだ。

 「平成の大合併」のもうひとつの特徴は、住民発議の制度化である。この住民発議制度は、有権者がその総数の50分の1以上の者の連署をもって、その市町村の長に対して、合併について、その是非も含めた諸々の事項を協議する場である「合併協議会」の設置を請求することができるという制度であり、今までは行政が発議・決定し、推し進めてきた合併に住民の意見を取り入れることができるように制定された制度である。つまり、地方行政が「我々の町はあの町と合併をする」と言ったときに、住民たちが署名を集めることによってそれに待ったをかけることができる、あるいは行政が「我々の町は合併をしない」と言ったときに、「我々住民はあの町と合併をしたい」と発議することができるようになったということである。

 本稿では、この住民発議の制度化に着目し、この「平成の大合併」において地方自治体がどのように合併に向かっていったのかを、広島県豊田郡瀬戸田町を事例に調査し、合併に関して住民投票をすることができるシステムの導入が、市町村合併の進展にどのような影響を与えたか、その深層について述べていく。

Ⅱ 調査対象地域と調査方法

(1)市町村合併の概要

(a)市町村合併の定義

 「市町村の合併の特例に関する法律」の対象となる「市町村の合併」とは、「2以上の市町村の区域の全部若しくは一部を持って市町村を置き、又は市町村の区域の全部若しくは一部を他の市町村に編入することで市町村の数の減少を伴うもの」を指す。すなわち、のうち、少なくとも1つ以上の市町村の数が減少(市町村の法人格が消滅)するものについて、「市町村の合併」と定義される。

(次号に続く)

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