寒仕込み酒造り大詰め 春を誘(いざな)う至福(しふく)のひと時 酒蔵開放26日新酒祭り

掲載号 05年02月19日号

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 創業80余年という因島市田熊町の備南酒造(有)=藤本久子社長・蔵元=は、今年も伝統にこだわる寒仕込みの酒造りに精魂をこめ、いま、槽搾(ふねしぼ)りという酒造りの工程のなかで一番ハードで緊張する作業に入っている。

 槽というのはヒノキ造りの木枠の箱。この中に仕込みタンクで熟成した乳白色の醪(もろみ)を袋詰めにして積み上げると、ちょろちょろと酒粕をしぼり取りながら原酒が流れ落ちる。

 この搾り立ての原酒を槽口(ふなくち)というが、この言葉には、そうした風情のなかに香りがただよってくるような語感がある。

 かつて因島市にあった七軒の酒造会社も、いまはここだけになった。槽搾りも県内の酒蔵では、ほとんど見なくなった。そして巨大なアコーディオンふうの自動圧搾機から新酒が生まれており、いささか詩情にかけるが、これも時代の流れ。

 26日(土)夜には、槽から流れる新酒の音に耳をそば立て、芳醇な香りを賞でながら至福のひと時を味わう酒好きな左党が集まる。

 一年中で一番寒い季節に朝早く酒米を蒸し、ひんやりとした酒蔵にひろげてさましたあと、室内度の麹室(こうじむろ)に移して酵母菌を植えつける。厳寒の汗だくの手作業である。

 酒米にくるまれた酵母菌の活動が始まると別棟の厚い土壁の仕込み庫のタンクに移される。醗酵をはじめ糖分を分解してアルコールと二酸化炭素を発生しはじめると工程のなかで一日中油断できない期間である。

 室温を気遣って夜中も2時間おきに酵母菌のご機嫌をうかがい温度調整。出産したばかりの乳児をはぐくむ心境と変わりない。暖冬の年もあれば厳寒もある。今年は、ほど良く寒い日に恵まれ「満足のいくできばえ」と蔵元が蔵人たちの苦労をねぎらう。写真はピーンと張りつめた酒蔵で槽搾り作業。

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