尾道・因島の合併記念事業 全国初「囲碁の館」を建設 11日、県内設計業者で指名再入札

掲載号 06年09月09日号

前の記事: “6期連続当選めざし松浦幸男県議(因島)が出馬宣言 県政報告会に支援者160人
次の記事: “過ぎゆけば夏の暑さも忘れたり忘れることもありがたきかな

0609070001b.jpg

 旧因島市が輩出した幕末の天才棋士、本因坊秀策(1829-1862年)にあやかり囲碁を「市技」に制定。男女の子供から大人、プロ・アマのタイトル戦など囲碁文化の継承や全国への発信に取り組んできた。こうした伝統の流れを尾道市が合併協議会のなかで引き継ぎ、旧因島市が編入合併前から計画していた、後世碁聖と仰がれる本因坊秀策の生家復元と、囲碁の普及を図る囲碁資料館の二つを整える「囲碁の館」を合併記念事業として建設することになった。

 総事業費は、当初旧因島市が計画していた生家復元の8500万円から資料館増設を含め2億5700万円に増額。担当も市教委から観光文化課へと移った。近く用地買収と設計入札にかかり、来年度着工、平成20年度オープンを目指すが、秀策の生家をそっくり昔の原型に復元するのか、多目的に利用できる観光施設にするのか方針が固まっていない現状だ。

囲碁文化継承する「市技」

 囲碁でまちおこしをしようと「市技」という耳慣れない言葉が因島で誕生したのは1997年。その試みが、世界遺産登録を目指す尾道市への編入合併で、そっくり継永されることになった。

 村上水軍の血を引く造船の島、因島から世界遺産登録にふさわしいまちづくりを目指す尾道市が囲碁文化を抱え込むことになったわけで、基本構想や市民と行政の役割分担などにもとまどいがち。合併は1月10日だったが7月13日になって、やっと「囲碁のまちづくり推進協議会」の初総会にこぎつけた。

 席上、会長に西岡伸夫尾道副市長をはじめ、副会長に尾道・因島商工会議所両会頭のほか観光協会会長や政経民間代表者ら20人の役員が選ばれた。

 これで、合併記念事業としての「囲碁の館」(仮称)建設のハード面と、まちづくり推進協のソフト面の両輪がそろい、関係者はホッとした一方で、初顔によそよそしさは隠し切れない。

生家復元に難問

 尾道市によると、因島外浦町の秀策生家跡に隣接する約1000平方メートルの用地を買収。秀策の子孫、桑原家に保存されている図面を手掛かりに間取りなどを再現。生家は木造ワラ葺き平屋建て約80平方メートルを復元する方針。だが、問題がないわけではない。

 難問の一つは、因島でのワラ葺き屋根が建築法に抵触、再現が難しい。第二は、間取りを完全に復元または生家跡で囲碁の対局や、お茶会などができる多目的活用を可能にするのかなどの方針が決まっていない。

 つまり、歴史文化的に忠実に再現するのか、観光文化的要素を取り入れるのか―ということになる。

 資料館についても、鉄筋平屋建で500平方メートルに秀策の遺品を常設展示する計画だがリピーターを考えると年間通じて囲碁文化に関係する特別企画展などが可能な設計が必要。

 こうした方向づけに関係なく8月11日には尾道市内の大手設計業者5社による指名入札を行ったが3回とも予定価格を上回り不落札。11日(月)には新らたに県内5社による指名入札を実施する。

殿堂入りした秀策

 日本棋院創立八十周年記念事業として、2004年11月15日オープンした囲碁殿堂資料館(東京都千代田区)。第1回の栄えある殿堂入りを果たしたのは、囲碁を「国技」に高めた天下人・徳川家康。近代囲碁史の開祖・初代本因坊算砂。後世碁聖と仰がれる島根県仁摩町(現大田市)出身の四世道策と因島出身の十四世跡目秀策の4人。

 殿堂入りを前にして、一躍有名になったのが秀策。アニメや漫画雑誌に登場。囲碁に縁が薄かった子どもやご婦人層の囲碁ブームに火をつけたのが「ヒカルの碁」の原作者(絵コンテ)ほったゆみさん。そこに登場する秀策のゆかりの地、因島を訪れる家族連れの少年少女が急増した。当時の因島市は、秀策生誕の地付近の駐車場にトイレを新改築、顕彰碑から墓地までの道しるべを立てるなど対応に追われた。

その時歴史が動いた

 NHKも秀策の偉大さに注目。5月6日にはBS2(衛星第二)で「碁聖・本因坊秀策無敗伝説」を2時間番組で放映。近代囲碁史に残る秀策流「耳赤の一手」をクローズアップ。7月5日には総合テレビ「その時歴史が動いた―勝負師は志高く」(番組キャスター松平定知アナウンサー、スタジオゲスト木村幸比古霊山歴史館学芸課長)を放送した。

 囲碁の天才・神童と騒がれた秀策は9歳で古里を離れ江戸本因坊家へ入門。家元で受けた教育は修業を通してただ強くなるだけでなく、人としての品格をも植え付ける人間形成だったことにスポットをあて、幕末の動乱期、家元が文化を担う時代から「大衆文化」に姿を変えていく経緯に迫った。

 御城碁十九連勝という前人未踏の記録をうち立て34歳という若さで世を去った秀策を偲ぶメッカ「囲碁の館」によせる思いを描ける場所の創設に寄せる期待は大きい。

碁ランティアの輪

 今夏で53回を重ねた本因坊秀策囲碁まつり。メーンイベントは優勝賞金100万円のプロ・アマトーナメント。それに全国から約300人の囲碁愛好老若男女が参加してのクラス別大会で「囲碁のまち・尾道」を全国に発信した。

 大会を支えるのは「碁ランティア」といわれる「碁打ちの出前」というユニークな取り組みをする囲碁愛好者グループ。そして日本棋院因島支部メンバーや市役所職員らが若い力の育成に地道な活動を繰りひろげ各種大会運営を支える後継者づくりに取り組んでいる

(村上幹郎)

E

トラックバック