学生が見た平成の大合併を検証 卒業論文・市町村合併 広島県豊田郡瀬戸田町を事例に【終】

掲載号 06年08月19日号

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 瀬戸田町の合併は、非常に興味深い研究だった。住民発議によって行われる住民投票によって設置された合併協議会がなぜ解散してしまったのか、というところから調査をしていくうち、瀬戸田町内にあった因習的・ムラ的な政治形態があるということがわかってきた。そして、直接民主政がそのムラ的な政治とぶつかるという稀な状況を見ることができたし、またそれがぶつかったとき何が起こるのか、ということを知ることもできた。この合併問題の主役はやはり「人」ではないだろうか。町長、議員、住民、区長と、さまざまな立場の人間が合併という問題に直面したとき、何を思いどのように動くのか、という部分が最も興味深かった。

 他の市町村合併の研究では、合併の財政効果や、合併と地域構造や年規模の関係といった抽象的なテーマが目立つ。本稿のような、市町村合併における住民運動と政治的プロセスを扱った研究はほとんど前例がないといっていいだろう。しかし、地理学というのは「その土地と人間とのかかわり」「地理的要因が人間の行動にどのように影響するか」といったことを、もっと扱うべきであろう。瀬戸田町だけでなく、日本にはもっと多くの興味深い合併の事例があるはずである。今後、そういった研究が増えていくことを期待したい。

 また、現在、新たなスタートを切った尾道市が、今後どのような町づくりを行っていくか、どのような町になっていくかも非常に気になるところである。今はまだ合併して新市になったばかりであるからわからないが、数年後には合併による何かしらの影響が見えてきているはずである。そのような研究も今後出てきてほしいものである。

 そして、この「人」を中心に据えたこの研究に不可欠だったのが、インタビューのインフォーマントの方々である。因島市役所合併推進室の村上宏昭氏、瀬戸田町前町長の田頭秀生氏、尾道市議会選挙出馬の飯田照男氏、尾道市・因島市合併協議会事務局の細谷睦夫氏には貴重なお時間を割いていただき、また非常に興味深いお話をしていただいた。瀬戸田町役場広域振興対策室の有光貢氏には瀬戸田町の合併に関する新聞記事のコピーまでしていただいた。合併を考える会代表の前田嘉治氏は、住民運動時の貴重なビラや小冊子などを貸してくださった。そして、特にせとうちタイムズ記者の青木忠氏には、インタビューのインフォーマントの紹介や電話での相談など、インタビュー以外でもさまざまなときに大変お世話になった。

 皆様にはこの場をお借りして厚くお礼申し上げたい。最後に、本稿のテーマ設定時から相談に乗ってくださり、適切なアドバイスやご忠告を多々くださった山崎孝史助教授に感謝の意を述べ、この論文の結びとしたい。

(完)



 本紙2006年4月15日号から15回にわたる連載―大阪市立大学文学部人間行動学科地理学コース専修・岩木拓也さんの卒論「市町村合併・広島県豊田郡瀬戸田町を事例に」が終了した。岩木さんは「4日間」という限られた瀬戸田町での滞在期間にもかかわらずよくぞここまでまとめきったと、そのフレッシュな問題意識と行動力に敬意を表したい。

 彼は論文を終わるにあたって、「新たなスタートを切った尾道市が、今後どのような町づくりを行なっていくか、どのような町になっていくかも非常に気になるところである。(中略)数年後には合併による何かしらの影響が見えてきているはずである。そのような研究も今後出てきてほしいものである」と、述べている。はやくも合併の光と影の輪郭が見え始めている今日、若き研究者のこうした指摘が気にかかるのは私だけであろうか。尾道市への編入合併が瀬戸田町の新しいスタートであることを切に願うものである。

(せとうちタイムズ記者 青木忠)

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