学生が見た平成の大合併を検証 卒業論文・市町村合併 広島県豊田郡瀬戸田町を事例に【14】

掲載号 06年08月05日号

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 2つ目の問題は、そのしまなみ海道の全線開通である。尾道市と愛媛県今治市を結ぶしまなみ海道は平成11年に開通したが、生口島内部(6.5キロメートル)と大島内部(6.3キロメートル)の2ヵ所だけはまだ開通していない(図の点線部分)。それが平成18年の5月に全線開通することになるのである。

 今までであれば、たとえば本州尾道から大三島まで行こうとした場合、向島と因島は島の上部を走る道路をただ通過し、瀬戸田町のある生口島に入ると出口で一旦下り、瀬戸田町内を通って南側の入り口に再度入り、大三島まで行かなければならなかった。しかし、全線開通すると、すべての島を一気に通過することができるようになる。

 これは、しまなみ海道の利用者からみれば非常に便利でありがたいことなのだが、瀬戸田町からするとそうでもない。今までなら、観光客がしまなみ海道を通る際は、必ず瀬戸田町内を通っていた。つまり、観光地の目の前にすぐ客が来るという状態だったのである。

 しかし、しまなみ海道が全線開通すると、観光客は瀬戸田町で下りることなく、さらに先の島に行くことができる。これは観光地としての瀬戸田町にとっては大打撃である。

 徹底した観光事業を行わなければ観光客が来ることはなくなってしまうばかりか、観光事業を行っても観光客が素通りしてしまう可能性すらあるのである。

 3つ目は、今後の尾道市の財政だ。合併により行政の人件費が削減され、合併特例債の恩恵も受けられるようになったことで、1年もつかどうかわからないとされていた瀬戸田町の財政難はとりあえず回避された。しかし、尾道市が裕福であるかというと、決してそうではない。尾道の財政も今後どうなるかはわからないし、また自治体が大きくなったことで支出も増える。

 さらに、尾道市は東隣の福山市に商業の中心地を奪われている状態である。尾道市より福山市のほうが大きな都市である。瀬戸田や因島の人間にしてみれば、車で本州尾道まで出てしまえば、どうせなら福山に買い物に行こう、となってしまう。行政の中心地と経済の中心地は全く別の問題だ、と言っても、やはり今後尾道市が経済的に活性化できない可能性は十分にあるのである。

 また、因島市との関係は、いまだ溝が埋まりきっていない感が否めない。瀬戸田町と因島市の合併協議会から、「因島市とは合併できない」と瀬戸田町が一方的に離脱したにもかかわらず、結局は同じ「尾道市」になってしまったわけだ。「時間が解決してくれる」とお互いの町が言い合っているので心配は必要ないかとは思うが、会議などで会うことがあっても、やはりどこかぎこちないとのことであるので、その時間が早く訪れることを願いたい。

(続く)

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