中国特需の造船界「寝耳に水」【1】日立造船関連の子会社株を売却 内海造船筆頭株主は投資会社

掲載号 06年02月18日号

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 日立造船(株)(本社・大阪市、古川実社長)は10日、造船事業と立体駐車装置事業の再編策を発表した。子会社で国内中堅の東証二部上場の中小型船メーカー、内海造船(株)(尾道市瀬戸田町、嶋末幸雄社長)を投資会社のカレイド・ホールディングズ(東京、川島隆明代表)に売却。立体駐車場装置事業は大手の日本コンベアと事業統合する。

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 公共投資の削減などが影響し、主力の環境事業など収益が悪化。2005年度から3年間の中期計画では2005年3月末時点で36の事業部のうち12事業から撤退。日立造船本体は、ごみ焼却炉など環境プラントや精密機械事業に経営資源を集中する。昨年1月1日に同じ日立グループだった(株)因島ニチゾウアイエムシーを吸収合併して大型船台で本格的な新造船建設を進めている内海造船の従業員、関連協力会社にとって投資ファンドの介入は「寝耳に水」。口には出さないが動揺は隠し切れない。

造船復活 大型設備投資

 80年代後半のオイルショックに追い打ちをかけられた造船業界の構造的大不況の波をもろに被り「島が沈む」とまで言われた因島、瀬戸田地方。このところ造船復活のきぎしが見え、大型設備投資のツチ音が聞こえてきた。

 内海造船も3年分の手持ち工事を抱えているが、韓国や中国との受住競争の中で悪戦苦闘。鋼材の高騰も船価に響いた。それもどうにか切り抜け、吸収合併した旧ニチゾウが所有していた因島工場の大型船台で20年ぶりとなる約3万トンのコンテナ船建造が始まった。と、同時に20億円を投じ、船体ブロック工場の自動化や塗装工場の新設も進めている。

 親会社の日立造船の保有株式は53.39%。内海造船の人事経営権をにぎっていたが、このうち32.96%(721万9千株譲渡額35億800万円)を投資会社カレイド・ホールディングスに28日付で売却する。カレイドは日立造船に代わって内海造船の筆頭株主になるわけで、複数の取締役を派遣する予定だが、日立造船の事業再編の一環として内海造船の経営体制は維持される。

造船株購入の狙い

 カレイドが造船会社に投資するのは初めてのこと。代表の川島氏は(株)日本興業銀行出身で福助(株)会長などを歴任。現在、大新東(株)会長。

 造船株購入の狙いについては、中国向けを中心に荷動きの活発化に伴い船舶需要が拡大しており、受注環境は好調に推移していることなどから造船業界に着目。韓国に加え中国の台頭も予想されるなかで内海造船の幅広い生産技術力等を見込んで投資先に選んだと理由づける。

 さらに今後の事業戦略についてコア(中心)事業である造船事業の強化と国内最強のプロダクトを目指している。その一方で「企業価値を高めた上で将来、株式を売却して利益を得る。時期や相手などは、内海造船に売ることも含め、同社と協議しながら決めたい」という方針。

 カレイドが日立造船に内海造船の株式購入を申し入れたのは昨年の12月。将来の売却をにらんで、事実上の経営権を握る33.4%の株式までは求めなかった。

株式売却 複雑な表情

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 日立造船は2002年に、旧NKK(現JFEグループ)と共同出資でユニバーサル造船(東京)設立。造船部門を移して本体から切り離した。かつて、日立造船城下町といわれた因島周辺から「日立」という名が消えて行くなかでの造船業界の活況に市民感情は複雑だ。

 今回の内海造船の株買却劇について「今造や常石に買い取られるよりましだ」という声がささやかれる。日立造船本体は自治体向けの焼却施設や情報技術(IT)分野への特化を進めていることから造船株を売却した。しかし、売却を了承したものの内海造船株20.43%は保有する。したがって内海造船は新たに筆頭株主になるカレイドと、引き続いて株式を保有する持ち株第2位の日立造船の両社と協力しながら造船事業を拡大させたい意向で、企業の合併、買収が注目されるなかで造船業界が投資ファンドの運営事業対象に狙われるなんて光栄のきわみだ―と、合理化で地獄を見た造船マンOBは冗談めかす。

 なにしろ85―87年の不況で日立造船因島工場から新造船建造を撤退。3300人の従業員はリストラで100人までに減った。あのドン底から、復活するとは思わなかったが「海があるからには造船はなくならない」と信じる人もいた。

「団塊」退職期

 「世界で戦える造船会社にしたい」と意気込む嶋末内海造船社長。大阪府高槻市出身だが父は日立の造船設計士で、親子二代の造船マン。島に再び活気がもどってきたのは、いわゆる中国特需だという。

 2008年の北京五輪、2010年の上海万博までは高水準が続くとみている。各造船所とも薄利多売で四苦八苦してきたが、今秋ごろから鋼材高騰分に見合った船価になり収益がアップする。やっとトンネルかち出られるが、景気回復で、いよいよチャンス到来と思いきや労働問題で頭が痛い。

(続く)

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