足羽の山は吾知るホツツジの下に本読む君を見るごとし

掲載号 05年05月21日号

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土屋 文明

 文明が植物に精通していたことは周知のとおりである。戦中戦後の疎開時の日々、東京に帰っての生活においても、一本の草木に心眼をそそぎ、いつくしんでいた。抄出の歌は、疎開先での日々を引き寄せての一首と思われる。足羽という山を調べてみると、福井市の郊外にある高さ百メートル余りの山で、いまでは山一帯が公園になっており、郷土の植物園や歴史博物館がある。この歌に出ている「本読む君」という人物もここに住んでいて、ともに植物に手を触れ語りながらの友人であった。

 かねてからホツツジと言う花の名は聞いてはいたがその自生地を一度は見たいものと思っていた種類であった。普通には庭石の縁どりや生垣として植えられてあるヒラドツツジ・クルメツツジなど、いわゆる五月に開花するからサツキと呼ばれている花である。ホツツジは同じツツジ科でも花どきが九月であるのが他のツツジ類とは違うのである。

 一昨年の九月の初めごろに、写真家の友人に同行して初めてホツツジの花にお目にかかることが出来た。中国山地の比婆山山系のひとつに「池の段」という千㍍余りの山に登った。山は急斜面ではなく、なだらかに続く登山道伝いに、いまを盛りと花をつけていた。木の丈は高地では一㍍くらいだが、山裾付近の道辺では、他の喬木と共生している関係か二㍍の物もあった。花いろは白に薄紅をさしていて、小花が群がって付いていた。高山地帯には、春先から、初夏、盛夏、初秋とお花畑がつぎつぎと咲き続けるが、ホツツジの花は地味ではあるが、初秋の高原や山地に欠かせない花の一つである。

(池田友幸)

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