海賊・自由と仲間と家族と【1】序章 海賊たちの海へ

掲載号 05年02月12日号

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ことばの輝き最優秀賞作品 因島高校三年 村上君佳

 海賊。というと何を連想するだろうか。頭蓋骨の下に大腿骨をクロスさせた黒い海賊旗”ジョリー・ロジャー”をはためかせる、海の荒くれ者だろうか。『ピーター・パン』のフック船長を思い浮かべる人もいるだろう。

村上武吉次男・景親公像(村上水軍博物館展示)

 最近では、ジョニー・デップやオーランド・ブルームといった人気俳優が海賊を演じた、ディズニーの『パイレーツ・オブ・カリビアン』がヒットした。海賊を扱った映画がヒットしたために、海賊に魅力を感じる人が増えたが、広い考えで見れば、まだ「海賊=悪役」というイメージが強い。そしてここに挙げたイメージはすべて、西洋やカリブ海などの海賊のものである。では、日本の海賊とはどんな人々であったのだろうか。

 日本にも海賊がいた、という事実は誰もが知っているものの、そのイメージとなると、やはり「海賊=悪」である。豊臣秀吉も、「海賊禁止令」を出すほどの海賊嫌いだったし、学校の教科書を見ても、「海賊=倭寇=悪人」という方程式ができあがってしまっている。今回、海賊を研究テーマに選んだ私も、以前はあまり海賊には興味がなかった。「海賊=悪」というイメージが、私の中にも少なからずあったのかもしれない。しかし私は、そのイメージを悉く打ち砕く二つの作品に出会った。そのうちの一つは、尼子騒兵衛先生著の漫画『落第忍者乱太郎』である。

 『落第忍者乱太郎』には、”兵庫水軍”という海賊が出てくる。彼らには「海賊=悪役、海の荒くれ者」というイメージがまったくない。彼らのチームワークは抜群で、お互いに尊敬し合っている。この漫画の主人公の乱太郎は歳の忍者のタマゴだが、乱太郎たちに対する海賊たちの態度は、親切、丁寧で、汚い言葉がその口から出ることは決して無い。そして彼らは皆賢く、自分の利を追い求めない人々である。私はこの作品に出会ってからというもの、「海賊=悪」というイメージは見事に消え去り、代わりに、この素晴らしい人々について、もっと知りたいという意欲がわいてきた。

 私の海賊のイメージを良いものに変えたもう一つの作品は、城山三郎先生著の小説『秀吉と武吉 目を上げれば海』である。”秀吉”とはもちろんあの豊臣秀吉。対して”武吉”とは、瀬戸内海に浮ぶ能島を拠点とした能島村上総大将村上武吉である。この物語は、武吉を中心に、他の海賊たちや、毛利、織田、豊臣などの戦国大名の関わり合いを描いたものである。私は、武吉の生き方に非常に感銘を受けた。秀吉が海に生きる海賊たちを支配しようと圧力をかけ、権力によって海賊たちを手中に入れていった時でも、武吉たち能島衆は最後まで抵抗した。武吉は、天下人の家臣になって地位を得ることよりも、愛する家族や仲間と日々を共に、自由な海で生きることを望んだのである。秀吉に従おうとしなかったため、武吉は何度も辛い目に遭ったが、生きること、命を重んじ、人を愛することを辞めなかった。私はこの小説を読んで、表舞台に出なくとも、賢く、優しく、必死で生きてきた海賊たちは、本当の日本人の姿を反映する人々だと感じた。

(この章続く)

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