気がつけば今日は私の結婚記念日せめて口紅濃くひきてみる

掲載号 04年12月04日号

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柏原 麗子

 一読して誰にでも解るしやさしい人情的な作である。初句の「気がつけば」というところから判断すると、数日あるいは、前日から結婚記念日だとは思わなくて、当日になってふっと思い出したのである。この歌を読んだだけでは、結婚して何年目よ、とも言っていないし。ご主人が健在とも述べてはいないのだが、「せめて口紅濃くひく」あたりでかなり(六十代か)の年輩であることが想像できる。

 人生の大きな節目と言えば、誕生と結婚であろうか、男性と女性とは昔とは異なって少しくらいの違いはあっても現在では同等である。誕生日は大きな節目と言えるが、これは自分が望んで生れて来たのではないが、やはりこの世に生を受けたことと大切に育てられたのだから、つぎは自分自身で大事にしたい節目である。もうひとつの節目は第二の人生の門出とも言われる結婚である。これは自分の意志で決めたものである。犬や猫でも相手を選ぶというが、人間様は動物の何百倍も悩み、苦労を積み重ねながらの結婚をし、新居をもち何人かの子供を成しても、相性が悪いとか、ちょっとの物の言い方とか、ごちゃごちゃと怪しいことをしながら離婚というのも珍しくない今である。

 人生はそれほどに順風満風ではない。毎日毎時に津波のように押しよせて来る。悩みや苦しみを、押し潰されそうになりながらの人生である。この作者は先年ご主人を亡くされており、ここ二、三年ようやくに平常心をとり戻したのだろう。口紅を濃くひくだけが身だしなみではないが、日常の中での女性の生きる決意の見える結句である。

(池田友幸)

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