夕風の波止場に来れば船虫らわれの歩幅に群れて退ぞく

掲載号 04年10月16日号

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大西 貴志男

 空気のそよりとも動かない夕凪どき、夕涼みと散歩を兼ねたひとときである。波止場にまだ陽のほてりの残っている石道を歩きながら、ふと眼を引かれたものがあった。いつもは何んとも思わないのだが、行く手の石道にうようよといる船虫たちの動きである。

 いかにも遠い白亜紀の生き物がそのままそこにいるような形をしている船虫である。数にすれば何百何千匹もいるだろうか。「われの歩幅」とは、一歩が六十糎くらいか、作者が一歩踏み出せば一歩の歩幅だけ退ぞき二歩は二歩の動きをする。気にかけなければ何の不思議も感じないが、人間の気配に合せた船虫たちの一糸乱れぬ動きに着想した意外性をもった作である。

(執筆者・池田友幸

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