約束

掲載号 04年06月12日号

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おまえに逢いたくて
早朝NEWYORKから飛んだ

TOKYOは雨
空港には出迎えの車もなく
灰色の水滴が冷ややかに心にひろがる
ホテルのロビーの華やかな喧騒
だが暗くなっても連絡はない
鈍いノックの音
いや兵士の靴音か
BAGHDADの瓦礫が視界を遮る
苦い砂の味が
唾液を失った口のなかで
ヒリヒリ舌を刺す
任務を終えた身体を
おまえは抱きしめるはずだった
ピッチの低い
脳を踏みつける連続打音
無人の海の底に
膝を抱えて転がるすぐねきで
聞き覚えある心拍音
いつ来たか問うのも忘れ
海面まで飛び跳ねる
陽がのぼる
汐の引いた浜辺に
風に髪をなびかせた
おまえがいる

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