他人(ひと)ごとと聞き流したる噂話 めぐりて恐ろし我が名も出てて
掲載号 04年03月13日号
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青木リツ子
噂話をどこで聞いているのだろう、歌の中に場所の設定はしてはいないが、なんとなく解るような気がして来る。病院での順番待ちかも知れない。
「ねんあんた、知ってる」
「私は別に聞く気はなかったが聞いてしまったの」
「実はこれこれしかじか」というように、えんえんと噂話は続くのである。
噂という文字は、口へんに尊(とおとい)とある。直訳すれば口をつつしんで話をしなさいということである。噂話とは風の便りとも情報とも言われるが、出所のはっきりしないのも結構多い。反対に「火のないところに煙は立たん」ということばもあるように、誰の口からどのように出たかもわからないものが次から次へと大きくなっていくものだ。ほんの一寸した「ぽろり」が何人かの口を通ると針ほどの大きさのものが、大きな棒になったり、夫婦の別れ話になったりすることがある。
この噂話の歌もはじめは他人のことだから、と聞くともなしに聞いていたのだが、ある所から急に声がひそひそとなって、どうやら「私」の名前を言っているようだ。どこまでしゃべったのか、どこまで聞いたのか、作者は予測もしなかった敵に不意をつかれたのである。
「ああ恐いこと・・・」と胸をつかれる思いでその場を去ったことだろう。噂話は大体に人間のマイナス面をチクリチクリと刺すところがあって、少し面白くて誰も責任はとらないのである。「悪事千里を走る」ほどではないが、短時間のうちに口から口へと伝っていく伝言板のようなものである。
(筆者・池田友幸)
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