因島で見た野鳥【179】ヒクイナの生息状況

ヒクイナは、嘴の先端から尾羽の先までが23cmほどの湿地に棲む水鳥で、すでに本連載【38】で紹介した。

広島県レッドデータでは、ヒクイナは「絶滅危惧Ⅱ類(VU)の一つで、「現状のままであれば近い将来絶滅する危惧がある」希少種である。筆者は、広島県尾道市因島中庄町のある遊水池で生息・繁殖を確認していたが、種の保護のため、生息地を特定できるようなデータを非公開とした。

最近、水害対策のためにこの遊水池の浚渫工事が進められており、ヒクイナの生息するアシ群生地が無くなりつつある。いずれ、ヒクイナはこの池から姿を消すことが予想される。

この稿は、ヒクイナの様子を紹介し、因島の自然の一面を、記録として残すことが目的である。

写真①ヒクイナ(2014年4月3日撮影)

写真①は、筆者が初めて撮影したヒクイナの成鳥である。頭・前頸・上腹部は赤茶色、後頸から体の上面は褐色、下腹と尾の下面(下尾筒)にはヤンバルクイナに似て白・黒の横斑が目立ち、嘴は黒味を帯び、脚と長い趾は赤い。警戒心が強く、昼間は滅多に姿を表さないし、小さな物音ですぐアシ原の中に入り、目にする機会は少ない。

「キョッキョッキョッキョッキョッ…」と特長のある断続音で囀るので、姿が見えなくても鳴声で生息を確認できる。

古来より、クイナ(本連載【37】【93】で紹介)とヒクイナをあわせて「水鶏(くいな)」と呼び、鳴声が木戸を叩く様子にたとえられる。

【93】で、平安中期の権力者・藤原道長と紫式部の間に交わされた、水鶏(くいな)に託した短歌の応答を紹介した。暗闇の葦原から聞こえるヒクイナの声は詩情をそそるであろう。

写真撮影でヒクイナを確認した年月を表①にまとめ、上述の遊水池でのヒクイナ生息状況を示す。

白抜きの円印は成鳥のヒクイナを確認した月で、黒丸印はヒクイナがヒナを育てていることを確認した月である。

空白の年月は、生息を確認していないだけで、非生息の意味ではない。浚渫工事は数年前から始められ、生息を危うんでいたが、2026年2月に1羽の成鳥を確認できた。

ヒクイナは南から夏鳥として渡来するとされていたが、近年は越冬分布が西日本にも広がっている。

表①は、因島でも越冬していることを示している。さらに、繁殖も複数例が確認された。

写真②育雛中のヒクイナとヒナ(2020年8月20日撮影)

2020年8月に確認されたのは成鳥のペアと4羽のヒナのファミリーで、写真②はその様子で、3羽のヒナは枠の外にいた。これにより、ヒクイナは育雛を雌雄のペアですることも確認できた。観察したヒナの日(月)齢はさまざまで、写真②のヒナが観察例の中で最も幼いヒナと思われる。

ヒナは、バンのヒナに似て全身は黒い。バンのヒナの嘴が赤いが、ヒクイナのヒナの嘴は、日齢が進むにつれて白い色から黒みを帯びてくる。従って、ヒナの状態でも嘴の色でバンとヒクイナを識別できる。

筆者の記憶では70年前の遊水池にアシ群生地はなく、ヒクイナは生息していなかったと推察できる。筆者は2008年頃から因島で野鳥観察を始めた。ヒクイナを初めて見たのが2014年4月である。長年この遊水池の近くに住み水鳥などの観察を楽しんでいた知人が、この頃、「ヒクイナの鳴き声を聞くようになった」と話していた。ヒクイナは、2014年ごろから棲み始めたのかもしれない。

浚渫工事は、ヒクイナの生息環境を破壊するが、遊水池を従来の状態に改修することでもある。ふるさとの変容の過程で起きた出来事の一つとして記憶に留めておきたい。

文・写真 松浦興一

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