2008年9月6日 / 最終更新日 : 2008年9月6日 times せとうち花壇 痩せた眼が大きくなりて母に似る毎朝鏡見て挨拶す 村上 宗子 女性だから、なんとはなしに、朝々鏡に向っている。 「今日は元気そうだな」 「ホクロがこんなところにあったかな、少し痩せたかな」、と思いながらの毎日である。 それにしても、この顔は誰かに似ていないかしら […]
2008年8月30日 / 最終更新日 : 2008年8月30日 times せとうち花壇 ジェスチャーも言葉も持たぬ蟻達の共同作業を静かに見入る 片山哲子 庭の一隅で進行する蟻達の作業に、作者は引き込まれていく。 一日分として割り当てられた仕事を消化しようとすれば、蟻の共同作業を覗く余裕はないけれど、作者は、「蟻達の共同作業の秘密を解き明かしたい」との思いを深 […]
2008年8月23日 / 最終更新日 : 2008年8月23日 times せとうち花壇 原爆とうこの世恐ろしく死にし吾子夢の中にも顔を見せざる 大田 静子 大田さんはあまりしゃべらない方で、どちらかと言うと話し上手よりも聞き上手の方であった。短歌グループの中で何十年となく、身近にお付き合いをしていたが、広島での被爆体験の詳しいことは知らなかった。又話をする気持 […]
2008年8月2日 / 最終更新日 : 2008年8月2日 times せとうち花壇 雨の日は雨を楽しみ茶を点てて骨董磨きし在りし日の義父 半田ミチエ 人と心が通う喜びは人を幸福にする。心が通い合うと感じたとき、人は生き生きと話し、爽やかに笑む。こうした素地があれば、人は思い出の断片から、心に温かさを感じ、爽やかな笑みを浮かべるだろう。この作品には義父の在 […]
2008年7月26日 / 最終更新日 : 2008年7月26日 times せとうち花壇 ばあちゃんは必殺仕事人という孫よひたすら真面目に生きて来ただけ 吉原 浩子 歌の大意は「孫は私が毎日火事の万端を次々とやっているのを見て言ってくれているのだが、私は只々家族のみんながよかれと思ってやっているのだよ」と返答をしているのである。
2008年7月19日 / 最終更新日 : 2008年7月19日 times せとうち花壇 そそとせる白き十薬抜こうかしら鳴子百合を日々追いつめる 村上 文子 この一首の眼目は、前半の「十薬抜こうかしら」と、後半の「鳴子百合を日々追いつめる」の葛藤にある。
2008年7月12日 / 最終更新日 : 2008年7月12日 times せとうち花壇 飼い猫に「ネコ」と名付けた歌ありて一人ぐらしの笑い初めなり 石田冨美子 年が改まっての新年の初笑いのことだろう。新聞か何か投稿短歌の欄を見て思わず高笑いである。人間は他の動物類とは違って笑うということは素晴らしいと思う。顔の表情を見れば気持が解り意志が読めるからである。一人ぐら […]
2008年7月5日 / 最終更新日 : 2008年7月5日 times せとうち花壇 タンポポの絮(わた)ふくれつつ風を待つ見知らぬ郷(さと)を恋うるか汝も 池本 滝子 人跡稀な深山の暮しを、十年ほど経験し、日々感動したが、積雪二メートル超えの春雪の下で青草が生長していたのは圧巻だった。その時、私は、雪国の春が一斉に訪れる秘密に触れたようで、おののいた。
2008年6月28日 / 最終更新日 : 2008年6月28日 times せとうち花壇 三つ葉草核(たね)が土中に生きづきて分裂拡散避けんと取りゆく 松井年幸 短歌には材料が何であっても、それぞれの人の思いがこめられてある。三つ葉草という、強烈な繁殖力を持った、畑の作物の害をする雑草除去に精力的に取り組んでいる思いの伝わる歌である。取っても取っても取り尽くせない三つ […]
2008年6月21日 / 最終更新日 : 2008年6月21日 times せとうち花壇 川船の襖絵すずしき上の間の羽生名人の次の一手は 池田 友幸 すずしいという言葉は、 ほどよく冷ややか きっぱりしている などの意味をふくみ、自分達の生活全般にわたって「すずしさ」への憧れが深く、かつ、広がりをもつことに気付かされる。 作中の羽生名人はかって七冠、現 […]
2008年6月14日 / 最終更新日 : 2008年6月14日 times せとうち花壇 草取りの陰気な仕事の小半日終りて立てば足腰痛し 松井 弘元 農作業をする中での草取り作業ほど地味で陰気な仕事はない。陰気、という字句は、どうも好きにはなれないが、草取りという仕事には付いて廻る一語である。
2008年6月7日 / 最終更新日 : 2008年6月7日 times せとうち花壇 障子しめ妻の足音消えしころ机上のコーヒー馥郁かおる 大西貴志男 この作品、「妻の足音消えしころ」から「馥郁(ふくいく)かおる」までの情感には泣かされる。 そこには 命あるもの同士の思いやり 命への感謝 自然と人の共生 があり、作者独特の典雅な情感が加わったりして、三次 […]
2008年5月31日 / 最終更新日 : 2008年5月31日 times せとうち花壇 あからさまに「赤ちゃんポスト」を設置して少子化対策などと言うなよ 上村美智子 この歌は、昨年(平成19年)の五月、熊本市にある慈恵病院に設備された「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」を素材に詠まれた一首である。歌の意味は、人間の子供を一つの「物」として扱い過ぎてはいないか、母が […]
2008年5月24日 / 最終更新日 : 2008年5月24日 times せとうち花壇 おとといより上手になりし鶯が裏の藪より表にまわる 山崎勝代 作者の五感は確かで、命あるものの輝きに敏感に反応するらしい。鳴声に注目している作者の期待に反し、その鶯は藪裏から表になかなか回れない。それで、作者のイライラはつのる。
2008年5月17日 / 最終更新日 : 2008年5月17日 times せとうち花壇 藤の花垂るるゴザに輪となりて唱歌に丙も口合せ歌う 小林 基美 どこかの咲き垂れた藤棚の下に小学校時代のクラスメートが集っての小宴会が今たけなわというところである。藤苑の事務所で借りて来たゴザ上に十人くらいが輪になって、小学唱歌かナツメロでも歌っているのだろう。歌の上手 […]
2008年5月10日 / 最終更新日 : 2008年5月10日 times せとうち花壇 縫う描く両手十指の健やかも八十半ばを視覚障害 小林美津子 この一首から「老い」を考えた。以下は老いるという心身の変化に、どう処するかの素人考えである。 貝原益軒翁の言を引けば『生まれつきたる天年(寿命)は多くは長く』、また『心は楽しむべし、苦しむべからず』とある […]
2008年5月3日 / 最終更新日 : 2008年5月3日 times せとうち花壇 寺の苑われとボタンは傘のうち春の愁いのいつかほぐれる 味呑 泰子 人によって花の好みは異なるが、一輪の花の中では、ボタンの花が花の王者のように言われている。昔から奇麗な女性のことを指して「立てばシャクヤク座ればボタン歩く姿はユリの花」と俗謡的に言われているとおりに美しい花 […]
2008年4月26日 / 最終更新日 : 2008年4月26日 times せとうち花壇 テレビ消し静かな部屋に初夏の風そろりと入りカーテン揺らす 増成君子 「テレビ消し静か」と「カーテン揺らす」がよく効き、その場の情景が見え、また言語表現は新鮮だ。 「初夏の風そろりと入り」という擬人化も、自然の無意(偶然の事象)と、人間の有意(統計的に必然と思われる事象)の絡 […]
2008年4月12日 / 最終更新日 : 2008年4月12日 times せとうち花壇 介護受け声大にして「ありがとう」生きいる命の輝きを見る 村上冨美子 輝くという現象があって、「きらきら照りきらめくこと」とされる。広辞苑には近世前期までは清音との添書きがあり、人々が「かかやく」以上に「かがやく」を選んだ、近世的願望の強さが偲ばれる。
2008年3月29日 / 最終更新日 : 2008年3月29日 times せとうち花壇 吾と違う歩幅もちいる妹の絵の向日葵をかくも気に入り 山崎 尚美 人の性格はそれぞれ異なるが、とくに姉妹の場合、互いの寛容の幅が(兄弟に比べ)広そうに見える。 さて、この一首「違う歩幅」と表現されているのは、広い意味の性格差で、互いに相手を尊重されている。たとえば「私と […]
2008年3月1日 / 最終更新日 : 2008年3月1日 times せとうち花壇 ひとしきり風吹き過ぎる畑に立ちもうすぐ弥生何を植えよう 岡本美穂子 ひとしきり風が吹き過ぎた。朝からの野良仕事で額に汗が滲む。もうすぐ弥生、作者は、弥生の風はそよ風、春風、いや万物を成長させる恵風か、春風の意なら穏やかな和風に床しさ一点を与えたいと思われ、野良仕事の汗を拭き […]
2008年2月23日 / 最終更新日 : 2008年2月23日 times せとうち花壇 紅白と絞りと紅の咲き分けの椿に来る人皆褒めくれる 林原 澄子 花好きな人には悪人はいないという。ああきれい、わあ、と、感嘆詞と声を上げながら花に見入っている人は幸せ一杯の人である。また、花作りをする人も、芽が出た、蕾が来た、咲いたよ、虫にやられた、と一輪の花にも一喜一 […]
2008年2月16日 / 最終更新日 : 2008年2月16日 times せとうち花壇 後向き階段下るをいぶかりて人ら笑えど楽な足どり 渡辺スズ子 覚醒という言葉があって、目から鱗が落ちるという意味も持つようだ。作者は階段を下りるのに後向き、つまり階段を上る姿勢で下りられた。普通、このような姿勢は幼児パターンとされ、生活の知恵者と評される熟年の方には凡 […]
2008年2月2日 / 最終更新日 : 2008年2月2日 times せとうち花壇 双子座の横に大きな赤き星イルミネーションに勝る火星よ 岡野幸子 作者は「火星よ」と呼びかけられている。そこで作者のいわれる「火星」を知りたく思った。 多数の電灯で飾った展示物をイルミネーション(電飾)という。この電飾は美しく個性的で街角を飾るには好個の素材だ。だが、ある […]
2008年1月26日 / 最終更新日 : 2008年1月26日 times せとうち花壇 小春日の桃剪定はのどかなり一羽の小鳥近く寄り来て 宗近陽三郎 去年の剪定作業は、風があって寒い日であったが、今年はここ数日風もなく小春日和が続いていてありがたいありがたい。お陰で仕事へのかかりも気持がよい、それに近くの桃の木に小鳥も来ているではないか、なーんと長閑(の […]
2008年1月19日 / 最終更新日 : 2008年1月19日 times せとうち花壇 希望とはささやかなもの手の中に包みて埋むる緋のチューリップ 池本 滝子 希望とは「あることの実現をのぞみ願うこと」とされる。作者は自身の希望を「手の中に包みて埋むる」と詠み、物として「緋のチューリップ」とされている。 つまり作者の希望は、財物でなく、ひそかな想いかもしれない。し […]
2008年1月12日 / 最終更新日 : 2019年12月30日 times せとうち花壇 年に一度便りを交わす年賀状添書ありて心ときめく 年に一度便りを交わす年賀状添書ありて心ときめく 山本 福子 このように年一回の年賀状交換のおつきあいの人も多いことだろう、と言うよりも、年賀状を出す人の半分はいると思う。しかし、印刷文字ばかりの挨拶状の片隅に、小さい文字 […]
2008年1月1日 / 最終更新日 : 2008年1月1日 times せとうち花壇 にこにこと男孫来たりてガラス拭き正月二日を東京に立つ 安川二三子 新年の帰省について、事前の一報はあったと思われるが、年の瀬の二十九日に、「おばあちゃん、来たよ」と、にこにこ顔の男孫が東京からやって来たのである。
2008年1月1日 / 最終更新日 : 2017年11月25日 times せとうち花壇 音たてて北風よわが胸に吹け豊けき遥ろけきもの携えて 毎年、元旦に本作品の「豊けきもの」、「遥ろけきもの」を、約35年間も想像し続けているが、いまだにその姿が見えない。その理由は、私が「見えなくてもよい」と思っているからだろう。 「豊けきもの」とは何か。最近になって「命の連 […]
2007年12月29日 / 最終更新日 : 2007年12月29日 times せとうち花壇 馬鈴薯の芽を刳ることなんとなく悪事を働く気分になりぬ 藤原野栖枝 一説によると「あらゆるものに命は宿っていて、命は使命を持っており、寿命が尽きても新たな命を育む」という。