父のアルバム【9】第二章 昭和を旅する

与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」には、「旅順口包圍軍の中に在る弟を歎きて」と副題がついている。この詩はさらにつづく。全編を読むのは初めてである。つづけてみよう。

堺の街のあきびとの
舊家をほこるあるじにて
親の名を繼ぐ君なれば、
君死にたまふことなかれ、
旅順の城はほろぶとも、
ほろびずとても、何事ぞ、
君はしらじな、あきびとの
家のおきてに無かりけり。

君死にたまふことなかれ、
すめらみことは、戰ひに
おほみづからは出でまさね、
かたみに人の血を流し、
獸の道に死ねよとは、
死ぬるを人のほまれとは、
大みこゝろのふかければ
もとよりいかで思されむ。

あゝをとうとよ、戰ひに
君死にたまふことなかれ、
すぎにし秋を父ぎみに、
おくれたまへる母ぎみは、
なげきの中に、いたましく
わが子を召され、家を守り、
安しと聞ける大御代も
母のしら髪はまさりぬる。

暖簾のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻を、
君わするるや、思へるや、
十月も添はでわかれたる
少女ごころを思ひみよ、
この世ひとりの君ならで
あゝまた誰をたのむべき、
君死にたまふことなかれ。

三原市中之町にある父の生家である。晩年父は、三原に帰りたいと度々私に告げた。私にとっても懐かしい家である。昭和10年代の写真と思われる。

(青木忠)

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