秋晴れを医院へ向かう道端の行商の荷台に蟹(かに)神妙なり

岡本美穂子

 今日はお医者への予約日だ、それにしても良いお天気で、晴れ透るという秋空である。子供達が空は広い、と歌っている声が聞えて来そうだ。


 その医院へ行く途中に、道端で魚の行商をしている車に出合ったのである。島の道はどこにでも車除けのスペースがあって、そこに車を止めて店開きをしているのだろう。
 とれたての新鮮な品物なので、通りがかりの人が何人か覗いて品定めをしたり、目当ての魚を捌(さば)いてもらったりしている。魚屋が近場にない人にとっては便利この上ないのである。刺身にしたり、煮付け用に作ってくれるから重宝である。
 この作者は医院へ行く途中だから、買いたくても今日は見るだけにしようと、みんなの後から何があるかなと思いながらの視点である。一つの保冷箱の中に蟹がいたのである。これもとれたての物らしく、目玉と脚の先が「私も生きています」と言うように動いていた。
 歌の終りの一句に「神妙なり」という言葉がある。この短歌の中の一番のポイントはここである。
 「神妙」という言葉は人間の心の中を言うのによく使われるが、ここでは、がさがさと動き回らずに「おとなしくしている」と、見た言葉だろう。この一言で歌が生き生きと輝いて来た。
 蟹は蟹でもワタリガニ、ガザミの種類で瀬戸内の海でよくとれる。味はなかなかの美味で、腹に卵をもつ頃が旬であって、大きい物は身を食べるが、小さいのは出し汁に使うようだ。
 蟹は日本には千種類もいて、この蟹の呼び名もガニ、ガネ、因島ではガンツーと言っていたのを思い出した。

(文・池本友幸)

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