短編小説ユトリロの街【13】

「あんただ!あんたのせいで、お嬢さ…イヤ麗香は変になったんだ。前の麗香さんに返してくれよ!」

健吾の顔を見るなり、辰也が一気にまくしたてた。

麗香からの連絡が途絶え、こちらから携帯や山荘へかけても、受話器を取る事はなかった。

そんな矢先、辰也からの連絡を受け、大急ぎで車を走らせて来たのだ。

辰也に案内された所は、部屋続きに六角形になっている、アトリエだった。

うつろな顔をして、それでも絵筆を運んでいる麗香は、健吾の知っている、かつての麗香ではなかった。

部屋には、男性が描いた様なタッチの荒れ狂う濁流の流木に止まっている、一羽のカモメの姿の絵と、一瞬白一色かと思われる、キャンバス一面に白く塗られた雪景色の中に、雪を被りながら、手を合わせ、ぬかずいて祈りを捧げている、少女の姿の絵が描かれていた。

健吾は辰也に断り、半ば強引に麗香を連れ出した。(つづく・次号最終回)

松本肇(因島三庄町)

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