短編小説ユトリロの街【1】

麗香は風のささやきを、聞いたような気がした。それはサワサワと、時には強く時には弱く心地よく耳に響いていた。眠っているでもなく、又、起きているのでもなく、いわば半寝の状態が麗香の一番好きな時だ。

サイドテーブルの上に置いていたガウンを身にまとうと、カーテンを開けてみて驚いた。何時もは温暖で、一年を通じても雪を見るのは珍しい位の、尾道市因島で薄く雪が積もっているではないか。目の前にある百貫島=写真㊦=も、雪霞みでボーとしたシルエットが浮かんでいるだけだ。さっきの風のささやきと思ったのは、シンシンと降り続く雪の音だったのだ。

麗香が楽しみにしていたユトリロ展が、今日2月14日から一週間、尾道市因島市民会館で開催される事になっている。ミケランジェロ、セザンヌ、モネ…などと有名な画家はいるけど、麗香はユトリロが一番好きだった。

松本肇(因島三庄町)

百貫島

 

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