続・井伏鱒二と因島【24】その作品に表現された「因島」

ところで、私は国立国会図書館に次の三点の複写を請求した。井伏の「警官と私」「捕物演出」、そして初出の「因ノ島」の三点である。


警察雑誌「公安」に掲載された「警官と私」には、太宰が警官をからかうことに失敗した話に続いて、こう述べている。

「警官と私」

井伏 鱒二

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(略)

今年の二月ごろ、私は三原市といふ町の友人を訪ねた。

ちようどそこへ警察署の署長が来て、ちよつと署まで来てくれと云つた。何の用かときくと、署員を集めて座談会を催すから出席してくれといふのである。

なぜ私にそんな重荷を背負はせるのかとたづねると、かつて私が「多甚古村」といふ作品を書いたので、その縁だと思つて出席してくれと云つた。「多甚古村」といふ作品は、讃岐の中洲といふ町の河野巡査をモデルにしたもので、材料は河野巡査から貰つたのである。

座談会に出ると、若い一巡査が私に質問した。

「いろいろ小説を読んでみて、私はどうも腑に落ちないことがあります。なぜ小説家は、警官のことを書くときには、あんなに悪くばかり書くのでせう。警官を讃めてある小説は殆んど一つもないと云つていいやうです。なぜでせうか。」

「それはつまり……。」

ちよつと私は口ごもつた。

「なぜだか知りませんが、さういふやうに書きたいから書いたのでせう。つまり、さういふわけかもしれません。」

今度は私が質問して、捕物の経験を一つ実例に示して話してもらつた。

この警察の署長は、もと因ノ島といふ島の署長を勤めてゐた。

私は疎開中に因ノ島へ魚つりに行き、ふとしたことからこの署長と私りあひ(ママ)になつた。

四方山の話をしてゐると、署長は「この島の情緒を味はつて頂きたいです。」と云つて、私を料亭に案内した。

そして彼は大きな声で歌をうたつて私を饗応してゐたが、「ちよつと三十分ばかり、失礼します。」と云つて外に出た。

やがて向ひ側の家で、どたばたする音がきこえ、その家の戸口から数珠つなぎにされた人たちが現はれた。 私服が一人につき三人づつの人間を数珠つなぎにして、そんなのが四組も五組も続いて現はれた。 一ばん後ろから署長の姿が現はれた。

漸く私には謎が解けた。署長は大きな声で歌をうたつたりして、向ふ側の博打宿の人たちに安心させ、彼等を一網打尽に捉えてしまつたのである。私は一ぱい喰はされたといふべきだろう。

翌日、署長に会つたとき私はかう云つた。

「きのふは大変御馳走さまでした。しかし署長さん、あなたは、なかなか演出がお上手ですね。」

「いやどうも、失礼しました。悪しからず御諒解ください。つい、大事をとりすぎましたものですから。」

署長はさう云つて頭をかいた。

後日この事件を私は脚色して「因ノ島」といふ小説に書いた。

(石田博彦)

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