因島で見た野鳥【120】ヒドリガモが飛んだ
本連載【113】で、カルガモの繁殖羽から非繁殖羽への換羽の様子を紹介した。カルガモは、カモ類の中では唯一、因島では留鳥で繁殖もする。羽衣は雌雄同色で、繁殖羽と非繁殖羽で大差はない。
ヒドリガモは、本連載【24】で紹介した。他のカモと同様に、冬を因島で過ごし、春には繁殖羽でシベリヤなどの北方の繁殖地に渡り、繁殖が終わった夏ごろ繁殖羽から非繁殖羽に換羽し、秋の終わり頃、越冬のため、因島に来る。ヒドリガモも非繁殖羽ではオスとメスはよく似た地味な羽衣だが、繁殖羽では、メスはあまり変らないが、オスは派手な羽衣である。秋から冬にかけの非繁殖羽から繁殖羽へ換羽の様子は、因島で見られる。しかし、繁殖羽から非繁殖羽への換羽は、夏季に繁殖地で行うので、因島では見られない。
ところが、2020年に、1羽のヒドリガモ・オスが因島で越夏した。ほぼ2~3日間隔で観察を続けていると、繁殖羽から非繁殖羽へ換羽が始まり、風切羽などが一斉に脱落し飛行できない状態を経て、非繁殖羽となり、夏の終わりにはついに飛び立ち、その様子をつぶさに観察できた。その概要を紹介する。
写真①は、3月9日に撮影した繁殖羽のヒドリガモの一例である。メスは褐色で脇に灰褐色の雨覆が見えている。
オスは、額から頭頂に黄白色の帯状の斑があり、頭・首は茶褐色で胸は葡萄色、背と胴は白っぽい。脇に、白色の雨覆と次列風切の翼帯が見えている。このようなオスの一羽が居残り、6月に入って換羽を始めた。
写真②は7月30日のヒドリガモ・オスである。頭頂の黄白色の斑は、まだら模様になり消えかかり、白っぽい背(肩羽)には褐色の羽が混ざり、胸と胴も褐色になりかけている。
写真③は、写真②の個体を8月20日に撮影したもので、肩羽の下に隠れていた風切や雨覆の羽が抜け落ち、新しい羽が入っている羽鞘が伸び始めている(詳しくは本連載113を参照)が、飛べない。
その後、徐々に新しい風切羽などが充実し、ついに、9月16日に飛び立ち(写真④)、10月1日には姿を消した。
写真⑤は、11月5日に見た非繁殖羽のヒドリガモ・オスである。
写真④の個体か、越冬のためにシベリヤから渡って来たヒドリガモ・オスかは識別出来ないが、写真④の個体も写真⑤のようになっているであろう。これらの非繁殖羽のオスも、春には写真①の繁殖羽のオスのようになり、シベリヤへ旅立つ。
7月20日頃、観察中のヒドリガモを見失ったが、すぐに、瀬戸田町の吉田敬一郎・慶子ご夫妻のご協力で移動先の池を見つけた。また複数の方々のお住まいの敷地内からの撮影も許可頂いて観察した。ご協力に謝意を表します。
写真・文 松浦興一
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