続・井伏鱒二と因島【21】その作品に表現された「因島」

『自選全集』と『新全集』はそれぞれ出版方針が全く異なる。『自選全集』はその目録に特色として「収録作品の殆どに著者自身の厳正なる削除・加筆・訂正など徹底的な推敲が行われている」とある。 それに対し『新全集』はその目録に特色として「井伏鱒二が発表した全ての作品を収録する。

翻訳は一部を収録する。過去の全集は著者の意思によって、過半の作品が割愛されており、実質的には初めての全集である。小社版の旧全集の収録分量は、本全集の四割程度である」とある。

さらに「底本には初収録の刊本を用いた。初版をたどることによって、井伏鱒二の作家としての成長過程が明らかになるように配慮した。著者の意思によって本文を決定した従来の全集とは異なり、作品成立時の本文を提供する」としている。

要するに『自選全集』は削除・加筆・訂正が行われた最終稿である。それに対し『新全集』は原則として初出録を底本とし、全ての作品を収録するという井伏の没後でなければ刊行できなかった点で大変意義深い。

では、「因ノ島」にどの時点で「戦争中の空襲で」の表現が加わったのか。実は昭和39年に『旧全集』を筑摩書房から刊行する際に加筆されたものである。『旧全集』の「因ノ島」が底本とした『集金旅行』版(昭和32年10月30日新潮文庫)には、

船はその波止場の先きをかすめて港にはひつて行き、赤腹を見せてゐる廃船を迂回して桟橋に着いた。この桟橋は、中田老人の村の桟橋と違つて規模が大きく出来てゐる。その桟橋の中心に、休業中の工場の建物が見え、その背後にも左右にも、ごちやごちやと家並みがつづいてゐた。土生(すべて假名)といふ港町である。
『集金旅行』版(昭和32年10月30日新潮文庫115・116頁)

とあるが、『旧全集』版にはこう表現されている。

船はその波止場の先をかすめて港にはひつて行き、戦争中の空襲で赤腹を見せてゐる廃船を迂回して桟橋に着いた。中田老人の村の桟橋と違つて規模が大きく出来てゐる。この桟橋の附根のところに休業中の工場の建物が見え、その背後にも左右にもごちやごちやと、家並みがつづいてゐた。土生(假名)といふ港町である。
『井伏鱒二全集第三巻』(昭和39年12月25日筑摩書房463・464頁)

もちろん、初出の「文芸春秋」版の「因ノ島」には「戦争中の空襲で」という表現は見当たらない。

(石田博彦)

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