続・井伏鱒二と因島【3】その作品に表現された「因島」

また、井伏の作品の中には「発動機船」(ポンポン船)も登場する。大正10年秋に来島したときの様子である。かなり井伏が恐怖感を味わったことがうかがえる。

私の乗つた発動機船は、総噸数五十トンくらゐのものであつたろう。尾ノ道の波止場から出発して、向島といふ陸地とも島ともわからないやうな島のはづれに出ると、船体は左に傾いたり右に傾いたりして、ときどき船尾を上に持ち上げる。

推進機が波の上に露出するのである。からまはりする音をたてゝ、それからまた船が平行になると、機関の音がやりきれない陰鬱な響きで持続する。私はこの船は沈むのだらうと考えて、大変おそろしかった。

乗客たちはみんな船室にねころび、その船室は風が畳ににじんで一種異様な匂ひの立ちこめてゐる部屋であつた。乗客たちは畳に頬をつけたり支柱につかまったりして、みんなねむつた風をしてゐる。

きつとそういふ風につくろつてお互ひに船が沈没するかもしれないといふ恐怖をおしかくそうとしてゐるのであらう。

『因ノ島―瀬戸内海の旅―』(新全集第3巻576~577頁)

井伏作品の中には土井家の人々以外に特定できる人物も登場する。「宮地理髪店」の主人である。

土井医院の壁は、白壁が剥脱して黄色い下塗りが瓢箪の型に現はれてゐる。宮地理髪店のおやぢは、裏の塩焼き小屋まで路の片側にカンナを植ゑた。

渡し場の乗り場には、新しいポールがたてられて、尖端の旗も染めなほされた――かういふ風景を、木津川丸の船客は甲板から眺めることができるのである。そしてこれと同一の風景が、海のなかに逆さに映つて見える。

『私の愛好する島や港』(新全集第3巻192頁)

この理髪店主は闘鶏家として作品に登場する。当時、因島では闘鶏が流行っていたらしい。

私は近所の床屋の闘鶏家と親しくした。床屋は私の顔を剃りながら、因の島の闘鶏は東京の鶏より強いと云つてゐた。その実この床屋は東京は一度も見物しないのである。

私は顔を剃つてもらいながら薄目をあけ、目とすれすれに動いてゐる剃刀の刃に、裏口から見える海が写つてゐるのを感応的だと思つた。剃刀の刃のにほひ、刃に写る海……後日、私はかういう書き出しの詩をつくつた。しかしこんな情景は島の床屋の場合にかぎらない。

『郷土大概記』(新全集第9巻272頁)

(石田博彦)

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